2025年の上海の不動産市場は、中国全体の不動産不況の中で、回復力と調整が入り混じる複雑な様相を見せています。住宅不動産は全体として価格の伸びが控えめであるものの、特に高級住宅分野で強さが見られます。一方、商業セクター(オフィス、小売、工業)は供給過剰と慎重な需要により、空室率の高さやテナントに有利な賃料が続くなど逆風に直面しています。それでも、政策緩和や魅力的なバリュエーションを背景に投資活動は回復傾向にあります。上海市政府は、住宅購入制限の緩和から手頃な価格の住宅やインフラ投資の強化まで、多くの政策措置を講じ、市場の安定化を図っています。本レポートでは、2025年時点の上海の不動産情勢の詳細な概要と、住宅・商業トレンド、投資見通し、規制環境、経済・人口の動向、今後の開発計画、主要リスクなど、今後数年の予測や動向を含めて解説します。
1. 住宅不動産のトレンド
価格動向: 2025年前半、上海の住宅市場は特に新築住宅で、他の多くの中国都市を上回るパフォーマンスを示しました。2025年3月の時点で、上海の新築住宅平均価格は1平方メートルあたり約57,600元に達し、前年比約10.1%の上昇となりました。これは中国の一級都市の中で最も高い成長率です globalpropertyguide.com。これに対し、全国的には価格が下落傾向で、主要70都市の新築住宅価格は2025年5月時点で前年比約3.5%下落しています tradingeconomics.com。一方、上海の中古(転売)住宅市場はやや軟調で、3月の中古住宅平均価格は1平方メートルあたり約59,500元で、前年比約6.3%低下しています globalpropertyguide.com。この乖離は、デベロッパーが新築物件を競争力のある価格(時には中古物件よりも低い価格)で提供し、購入者を惹きつけていることや、市による新築住宅の価格上限撤廃も一因となっています globalpropertyguide.com。
需要と供給のダイナミクス:上海の住宅購入需要は、2021~2022年の危機の底から徐々に回復しています。2025年初頭には安定化の兆しが見られました。例えば、2025年第1四半期の市全体の住宅販売量の減少幅は前年比-2.4%まで縮小し(例年よりも大幅な減少から改善)、globalpropertyguide.com、高級・ラグジュアリー住宅は顕著な明るい材料となっています。上海や長江デルタ地区の裕福な購入者たちは、全国的な不動産不調の中で、上海の高級物件を安全な投資先と見なして積極的に「資金を寝かせる」動きを見せています。japantimes.co.jp 最近の一例では、200戸以上の新築高級住宅(1戸約500万ドル)が1日足らずで完売し、1,500万ドルのペントハウスも数時間以内に売約となりました。japantimes.co.jp これら高級物件の多くは、1年前の同種ユニットと比べて10~20%高い価格で販売されており、2024年初頭の上海全体の新築住宅価格の前年比0.6%の上昇率を大きく上回っています。japantimes.co.jp 一方、大衆市場の需要は依然として控えめです。開発業者の債務懸念や雇用市場の不透明感から、購買者の信頼感は徐々にしか回復していません。reuters.com reuters.com。
都市部 vs. 郊外市場:上海の中心地区は引き続き高額な価格と安定した需要を維持しており、特に好立地にあるリノベーション済みや新築物件が人気です(例:黄浦、徐匯、静安)。一方、郊外や周辺地域は、市の「五大新都市」構想の恩恵を受けています。上海は5つの周辺新都市(嘉定、青浦、松江、奉賢、南匯〈臨港〉)を2035年までに自給自足型の都市拠点へと開発しています english.shanghai.gov.cn。これらの新都市は、交通の利便性向上や特化型産業区(たとえば青浦はデジタル産業と北斗ナビゲーション、嘉定は高級装備や医療機器など)により、住宅開発と人口流入を引き付けています english.shanghai.gov.cn。インフラ整備(新しい地下鉄路線、高速道路など)が進展するにつれ、こうした拠点の郊外住宅市場の成長が見込まれています。2024年、上海は「住宅買い替え」プログラムを開始し、住民に古い住宅を売却してこれらの新地域で新居を購入することを促しました。開発業者や仲介業者が買い替えに割引を提供しています practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com。これにより、五大新都市で取引が活発化しました。全体として、上海の郊外住宅供給は、臨港や松江などの大規模新規開発を通じて増加していますが、都市計画による人口上限(2,500万人程度)があるため、供給増加は制御されており、質の高い開発に重点が置かれています。
主要な開発エリア:上海の住宅市場では、いくつかの地区とプロジェクトが際立っています。浦東の前灘(ニューバンド)は、金融と住宅が計画的に融合した地区であり、新たなCBDの代替地として成長していることから複数の高級マンションが発売され、強い需要を見せています。海沿いの臨港(南匯新城)は、テスラのギガファクトリーや新たなテスラ・エナジーストレージ工場があるハイテク&物流拠点として急成長しており、自由貿易区のインセンティブで惹きつけられた人材向けの住宅も増加中です cambridgenetwork.co.uk cambridgenetwork.co.uk。伝統的な高級住宅地である旧フランス租界や陸家嘴は、裕福な国内購入者に引き続き非常に人気です。これらのエリアは新規供給が限られているため、新たな高級マンションが市場に出ると強い関心が集まり、上述の高級物件の抽選販売の過熱にも表れています japantimes.co.jp。一方で、強い職場中心地がない郊外エリアでは、新築住宅の消化が遅れたり、未販売在庫が発生するポケットもあり、これは国内の主要立地以外での供給過剰という全国的傾向と一致しています reuters.com reuters.com。
展望: アナリストたちは、上海の住宅価格が今後も多くの都市より堅調に推移すると予想しています。2025年中頃のロイターの専門家調査では、2025年に全国の住宅価格が約4.8%下落すると予測されましたが、上海のような一線都市では軽微な調整にとどまり、2026年までに安定すると見込まれています reuters.com globalpropertyguide.com。実際、一部の予測では、現在の調整後、上海の価格が2026年には再び成長を再開し、年率1~2%の上昇になると見ています globalpropertyguide.com。この楽観的な見方を支えるのは、上海の裕福な買い手が引き続き多いこと、住み替えによる住宅需要が高いこと、そして支援的な政策です。2025年第1四半期には、同市の高級新築住宅の平均価格が四半期ごとで0.5%上昇し、1平方メートルあたり約14万4,600元となり、緩やかな上昇基調が見られました joneslanglasalle.com.cn。金融環境が緩和され、地域の住宅購入規制が緩められているため、一次市場の価格は堅調もしくはやや上昇する見込みであり、二次市場の価格は買い手の心理回復とともに底打ちする可能性があります joneslanglasalle.com.cn。この見通しへのリスクは中国全体の経済です。もし経済成長が期待外れになったり失業率が上昇したりすれば、上海の強靭な住宅セグメントすら停滞しかねません。しかし大きなショックがなければ、上海の住宅市場は今後数年間、緩やかな成長と高級物件の堅調さが続くと見込まれます。
2. 商業用不動産のパフォーマンス
オフィスセクター(グレードAオフィス)
2025年の上海のオフィスマーケットはテナント有利が続き、多くの新規供給と需要回復の緩やかさから高い空室率と賃料下落が特徴となっています。2025年第1四半期、上海のグレードAオフィスの空室率は中心業務地区(CBD)で16.7%、周辺サブマーケットでは29.2%に上昇し、複数の新プロジェクトが竣工しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。市内ではわずか第1四半期だけで約18万平方メートルの新規グレードAオフィスが追加され、都心に2棟の新タワーを含み、2025年には160万平方メートルの新規供給が見込まれており、これは中国都市の中で最大規模です pdf.savills.asia pdf.savills.asia。この供給量は現在の需要を大きく上回っています。中国のトップ10都市全体で、2025年の新規オフィス竣工面積は530万平方メートルと予想されているのに対し、純吸収は約250万平方メートルにとどまります。その新規供給の70%以上が一級都市、特に上海と深圳に集中しています pdf.savills.asia pdf.savills.asia。
このような供給過剰に直面し、家主たちは賃料を引き下げ、入居者を誘致または維持するために手厚いインセンティブを提供しています。上海CBDのグレードAオフィス賃料は、2025年第1四半期に前期比約2.2%下落し、下落傾向が続いています joneslanglasalle.com.cn。周辺部のオフィス賃料は前期比約2.6%下落し、高い空室率を抱える郊外の家主は大幅な賃料割引や内装補助を提供しました joneslanglasalle.com.cn。年間ベースで見ると、市場アナリストは2025年に上海のオフィス賃料が10~15%下落すると予測しており、主要都市の中で最も大きな下落となる見込みです pdf.savills.asia pdf.savills.asia。対照的に、北京のオフィス賃料は横ばいから-5%程度と予想されており、上海の需給バランスの悪化がより深刻であることを示しています pdf.savills.asia pdf.savills.asia。家主たちは柔軟に対応しており、多くが契約条件の再交渉、契約期間の短縮、またはフリーレント期間の付与などで入居率の維持に努めています joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。
需要面については、いくつかの好材料があります。上海のオフィスリース活動はパンデミック時の低迷から徐々に回復しており、主にコスト意識の高い移転やグレードアップがけん引しています。2025年第1四半期には、グレードAオフィススペースの純吸収が約91,000平米となり、国内の金融やプロフェッショナルサービス企業が低賃料を活かして高品質オフィスに移転したことが要因となりました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。多くのテナントが古いグレードBビルやより高額なエリアから、賃料格差が縮小したことを受けて「フライト・トゥ・クオリティ」で新プロジェクトへアップグレードしています joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。特定の成長分野も需要をけん引しています。テックや研究開発型産業(集積回路、AI、バイオテクノロジー等)は活発で、伝統的な都心のタワーよりもビジネスパークやイノベーションキャンパスを好む傾向があります joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。しかし、全体的な需要回復はせいぜい緩やかです。中国経済成長の鈍化や企業のコスト削減姿勢により、多くの企業は依然として規模縮小や拡張延期を続けています。特に、外資系多国籍企業(MNC)は上海での一部事業を縮小しており、外国投資の減少や2024年の目立ったMNCの移転・撤退により追加のスペース返却が発生しました pdf.savills.asia pdf.savills.asia。伝統的な金融、不動産、製造などの分野では、効率化のため余剰のオフィススペースが市場に戻されました。新規ビジネスの設立も鈍化しており(2024年後半の新規会社登録は前年比約11%減)、新たなオフィス需要は限定的です pdf.savills.asia。
オフィス市場の見通し:上海のオフィス市場は、回復までに長期の時間を要すると見られています。過去最高の空室率と、2027年頃まで続く建設計画 pdf.savills.asia pdf.savills.asia により、この数年間、借主にとって有利な市場状況が続くと予想されています。2025年~2026年には、供給過剰が吸収されるまで賃料の軟化が続く可能性が高いです。供給過剰への対策として、当局は古くなったオフィスビルの転用(例:老朽化したグレードB/Cオフィスを住宅やホテルなど別用途に変更)を検討中です pdf.savills.asia pdf.savills.asia。一部の貸主は、プロジェクトの引き渡しを延期したり、スペースの統合を選択する可能性もあります。中期的には、上海が金融・商業拠点としての地位を維持すれば、中国経済が安定し、外国企業の信頼が回復した際に、需要が再び戻ることが期待されます。しかし短期的には、高い空室率と低賃料の状態が続き、オフィス資産価値への圧力や、コワーキング拡大・柔軟なオフィスサービス・政府による余剰スペースのリースなどのイノベーションが促されるでしょう。市場の回復は、景気の回復や新規供給抑制、未活用オフィスの新たな用途開拓が成功するかにかかっています。
小売部門(ショッピングモール&小売不動産)
上海の小売不動産セクターは、消費支出の回復に支えられてパンデミック後の低迷から徐々に脱しつつありますが、2025年も貸主にとって依然として厳しい環境が続きます。小売賃貸の活動は2025年第1四半期も比較的低調で、多くの小売ブランドが拡大に慎重であり、一部は店舗開業を延期しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。都市の高級小売モールの空室率は9.9%(第1四半期で0.8ポイント増加)に上昇し、郊外の分散型小売空室率は13.8%に達しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。2025年前半には新たな大型モール開業がなかったため、空室率のさらなる増加は抑えられましたが、小売業者が利用可能なスペースを豊富に選べる状況となり、既存施設同士の競争は激化しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。上海の主要ショッピングエリアの1階平均賃料は、2025年第1四半期に前四半期比で約1.4%下落し(1日あたり1平方メートルあたり約43.5元)、緩やかな下落傾向が続きました joneslanglasalle.com.cn。非中心部では、賃料が前四半期比で約1.6%下落し、1平方メートルあたり1日15.2元となりました joneslanglasalle.com.cn。これらの下落は、貸主がテナント誘致のために賃料割引や柔軟な賃貸条件を提示していることを反映しています。
全体的に慎重なセンチメントが続いているものの、特定の小売セグメントは成長しています。上海の消費経済は、2025年の政府による消費刺激政策(例:消費券やフェスティバル)によって後押しされています。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn JLLによると、体験や健康、バリュー志向の小売カテゴリが拡大しています。たとえば、スポーツウェアやアクティブライフスタイルブランド、リーズナブルな飲食チェーン、コレクティブルトイショップ、ペット用品店、VR・エンターテインメント型コンセプト店舗などが積極的に出店しています。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn これらの分野は、健康・ソーシャルエンターテインメント・手頃な贅沢を重視するポストパンデミックの消費傾向と一致しています。加えて、国内旅行やショッピングの回復を受け、いくつかの海外高級ブランドや化粧品ブランドが上海で旗艦店を再オープンしています。貸主側もモールの再定位・刷新で対応しており、多くの施設で改装やテナント構成の見直し、集客目的のアトラクション追加などが実施されています。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn たとえば、古い百貨店がフロアをインタラクティブ体験スペースやコワーキング拠点へと転換する動きが見られます。
今後を見据えると、小売市場の見通しは慎重ながらも楽観的です。中国が2025年に消費主導型の成長を重視する中、小売業者は再び拡大の勢いを取り戻すと予想されています joneslanglasalle.com.cn。アナリストは、現在の供給の波が吸収され、消費者信頼感が回復するにつれて空室率が横ばいになると予測しています cbre.com cbre.com。レゴランド上海リゾート(2024〜2025年開業予定 cambridgenetwork.co.uk cambridgenetwork.co.uk や西岸エリアなどの新商業施設)が供給ラインに加わることで、現代的な小売施設の供給が増加し、新たな消費地も創出されます。家賃に関しては依然として圧力があり、2025年には一等地・二等地ともに家賃がさらにわずかに下落するとみられます cbre.com cbre.com。そこでオーナーは、ベース家賃の引き上げに頼るのではなく、オンライン販売、ポップアップイベント、“ショッパーテインメント(娯楽+ショッピング)”による滞在時間増加などにより売上高を高めることに注力しています cbre.com cbre.com。総じて、上海の小売不動産はショッピング・文化の中心地としての都市の地位から恩恵を受ける見込みですが、今後数年はスペースの再活用と新たな消費トレンドへの対応が成功の鍵となります。
工業・物流セクター
上海の工業用および物流用不動産部門は、製造と流通の拠点としての都市の役割に支えられ、急速に拡大しています。しかし、2025年には物流不動産市場が供給過剰の状態となり、新しい倉庫がテナントの入居ペースを上回る速さで供給されているため、空室率が上昇しています。2025年第1四半期には、松江区、青浦区、金山区などで3つの新規プロジェクト(44万2,000平方メートル)が完成し、上海の非保税型現代物流物件ストックが1,000万平方メートルを超えました。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn これにより、第1四半期の物流倉庫の空室率は28.0%へと上昇し、賃貸需要が堅調であるにもかかわらず非常に高い水準となりました。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn 倉庫スペースの純吸収量は四半期で約8万9,000平方メートルとなり、前年をわずかに上回りましたが、その主な原動力は3PL(サードパーティ物流)企業でした。joneslanglasalle.com.cn しかし、多くの新築施設はテナントが大幅な拡大に慎重姿勢を崩さないため、入居ペースが遅れています。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn オーナー側は高止まりしている空室に直面し、家賃を積極的に引き下げています。上海の全体物流施設賃料は第1四半期に前期比3.7%減(前年比約10.6%減)となり、1平方メートルあたり1日約1.35人民元まで下落しました。joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn これは不動産セクターの中でも最も急激な下落の一つであり、激しい供給競争を反映しています。
上海の工業団地およびビジネスパーク(研究開発および軽工業オフィスを有する)は同様の傾向を示しています。市はハイテク産業クラスターを積極的に推進しており、例えばバイオテクノロジーやAI向けの張江サイエンスシティ、浦東や閔行の数多くのビジネスパークなどがあり、新しい竣工案件が急増しています。2025年第1四半期には4件の新しいビジネスパークプロジェクトが提供され、42万平方メートル以上を供給し、ビジネスパークの空室率は約23.1%に上昇しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。供給圧力の下、ビジネスパークの賃料は四半期比で約2.4%減少し(前年比では二桁の下落)、joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。それでもなお、特定の産業サブセクターにおける需要は堅調です。集積回路(半導体)、人工知能、ライフサイエンス分野の企業が高仕様のスペースを積極的に賃借しており、先進製造業を推進する政府の取り組みによる支援もしばしば受けています joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。さらに、国が支援する研究機関やインキュベーターも拡大しており、民間部門の慎重姿勢を一部相殺しています joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。上海は物流ハブとしての地位も揺るぎなく保持しており、世界一忙しいコンテナ港と、長江デルタ地域にサービスを提供する大規模倉庫群を抱えています。このように、短期的には供給過剰が明らかですが、長期的な成長要因(電子商取引、医薬品・食品向けコールドチェーン物流、地域配送のニーズなど)は依然として健在です。
産業/物流の見通し:短期的な課題は在庫過剰の解消です。上海の自治体もこれを認識しており、物流・産業用途の商業用地供給は2024年に過去10年で最低水準となりました pdf.savills.asia pdf.savills.asia。また、新たな産業施設の建設着工も減少しており(オフィス・産業系の新規着工は2024年に全国で約27.7%減) pdf.savills.asia pdf.savills.asia。将来の供給減少に加え、中国政府の国内消費促進政策(3PL・小売物流に好影響)や「チャイナ・プラス・ワン」製造戦略(輸出物流の需要増加も期待)により、ファンダメンタルズは徐々に改善が進む見込みです。賃料は2025年まで比較的緩やかな下落圧力が続くものの、需要が追いつくことでその後は安定化すると予想されます。実際、投資家のこの分野への関心は高まっており、主要立地の近代的物流施設は逆サイクル型資産クラスと見なされ、比較的安定した収益をもたらす傾向があります cbre.com cbre.com。また、老朽化した産業用地の用途転換もさらに進む可能性があり、例えば、時代遅れの工場を都市型物流拠点やデータセンターへ転換することで、実質的な供給が絞られます。2020年代後半には、港湾ターミナルや貨物鉄道の拡張など新たなインフラが稼働し始めることで、上海の産業用不動産市場は力強さを取り戻すことが予想されますが、成長率はより持続可能なものとなり、2010年代後半の極端な需給逼迫時よりも平均空室率がやや高くなる可能性があります。
(注:ホスピタリティセクターにおける商業用不動産のパフォーマンスも上昇傾向にあります。中国の再開により、上海のホテルの稼働率が改善しており、2025年2月時点で5つ星ホテルの稼働率は前年比約1.2%増となっています。また、2025年初頭には国際訪問者数も前年比+34%増加しました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。新しいホテル供給(例:虹橋に2軒目のシャングリ・ラとトンプソンホテルなど)が予定されていますが、観光需要の増加により主に吸収されると予想されています joneslanglasalle.com.cn。ホスピタリティの回復は商業用不動産、特に小売や複合開発に好影響をもたらしていますが、詳細な分析は本レポートの範囲外とします。)
3. 投資の見通し
現在の投資環境:中国の不動産問題が最高潮に達した時期の後、上海の不動産投資活動は2025年に堅調な勢いを示しています。2025年の第1四半期には、上海で24件の一括不動産取引が記録され、取引総額は114.6億元に達し、四半期比で20%の増加となりました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。この増加は、投資家心理や市場の流動性の改善を裏付けています。特に、ほとんどの取引は小規模で、第1四半期の取引の約74%が5億元未満であったことから、投資家が小口資産やリスク管理型の取引を好む傾向を示しています joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。富裕層(HNWIs)や国内の法人バイヤーが主要な原動力となっており、取引量の約67%を占めています joneslanglasalle.com.cn。これらの買い手は、素早い意思決定能力を持ち、積極的に資産(時には不良債権や再活用が必要な物件)を取得しており、不動産の活性化や市場への流動性の注入に貢献しています joneslanglasalle.com.cn。一方で、機関投資家(大型ファンドや保険会社など)は2024年には比較的慎重でしたが、価格が魅力的になってきたことで徐々に市場に戻りつつあります。
国内投資 vs. 海外投資: 現在、上海の不動産投資の大半は国内資本から来ています。中国の保険会社、不動産デベロッパー、および裕福な個人が、割安な価格で資産を購入する機会をつかんでいます。例えば、2025年第1四半期には、保険会社が賃貸マンションポートフォリオに強い関心を示し、これが取引額ベースで最大の資産クラス(投資の34%)となり、オフィスセクター取引を上回りました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。これらの賃貸住宅プロジェクトは、安定した収入と政策支援(政府が賃貸住宅投資を奨励している)により魅力的とされています。オフィスは四半期の投資額の約29%、小売が27%を占めました joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn。一方、海外投資家は過去1年間、比較的控えめな動きでした。中国の資本規制、地政学的緊張、為替リスクへの懸念などが、多くの海外買い手を遠ざけています。実際、中国の不動産分野への海外直接投資は急減し(ある報告書では2024年に外国投資が27%減少したと指摘)、一部の多国籍企業のオーナーが非中核資産を売却しています pdf.savills.asia。とはいえ、上海はゲートウェイ都市としての地位があるため、グローバル投資家、特にオポチュニスティックファンドや香港・シンガポール系デベロッパーのレーダーには引き続き残っています。最近では、国際的なプライベートエクイティ企業数社が、主要立地で割安評価となっている破綻寸前のオフィス資産を探しているなど、関心が再び高まりつつある兆候も見られます。中国経済が安定し、規制の明確化が進めば、海外資本が2025年から2026年にかけて増加し、上海の長期成長ストーリーを活用する可能性があります。
賃貸利回りと資本価値:過去1~2年にわたる不動産価値の調整により、上海における賃貸利回りの改善が見られています。住宅セクターでは、これまで主要エリアのグロス賃貸利回りは非常に低く(約1~2%)推移してきましたが、価格が横ばいとなり、コロナ後に家賃が回復したことで、利回りがわずかに上昇しています。たとえば、サービスアパートメントや賃貸住宅ポートフォリオは、現在3~4%の利回りで機関投資家を惹きつけており、より合理的な価格設定を反映しています。商業セクターでは、オフィスビルの利回りが拡大し、資本価値が下落しています。数年前には上海の一等地オフィスのキャップレートは約4.0%でしたが、現在は一部で4.5~5.0%に近づいており、インカムを重視する長期投資家にはオフィスビルがより魅力的になっています。中核立地の小売資産は依然として5%未満の利回りで取引されていますが、セカンダリーの小売やホテル物件は市況低迷の中で6%以上に上昇しています。市場が底打ちすれば、今買う投資家は健全なインカムおよびサイクルが好転した際の資本価値上昇の両方を獲得できると期待されています。CBREによれば、2025年が転換点となる見込みです。金利の低下と資産価格の下落により、より多くの投資家が参入し、投資取引量が再び成長軌道に乗る可能性があります。cbre.com cbre.com。コンセンサスとして、中国の不動産調整はバリューポケットを創出しており、上海では逆サイクル資産、すなわち物流倉庫、集合賃貸住宅、主要立地のグレードAオフィスなどが含まれます。cbre.com cbre.com。これらのセグメントは、市場回復とともに中期的な高収益が期待されています。
キャピタルゲインの可能性:短期的な(2025年~2026年)見通しでは、一部セグメントでは依然として価格圧力がかかる可能性があります—特にオフィス(空室率が低下するまで)やマスマーケットの住宅(過剰在庫が解消されるまで)です。しかし、上海の長期的なファンダメンタルズは、今後10年で大幅な価値上昇の可能性を示唆しています。都市の経済成長の継続(上海のGDPは2025年に約5%の成長が予測され、全国平均を上回るとされています cbre.com)、金融センターとしての役割、高所得人材の流入などが不動産価値を支えています。全国的な住宅価格が2026年までに安定するという予測通りになれば reuters.com globalpropertyguide.com、その後上海も中程度の価格上昇を再開できる可能性があります。一部のアナリストは、プライムな上海不動産が現在サイクル上の「バリューポイント」にあると見なしており、とくにラグジュアリー住宅やグレードAオフィスは2~3年前より10~20%安い状況です—市場が完全に回復すれば、年間1桁後半の高い増価も期待されます。もちろん、セクターによって動きは異なります。新経済産業に結びつく物流やビジネスパークの資産はより早く価値上昇するかもしれませんが、古いリテールセンターなどはリポジショニングしない限り遅れる傾向があります。
要約すると、上海の投資展望は慎重ながらも前向きです。この市場は、長期的な視点と高いリスク耐性を持った投資家を引きつける一方、より保守的な投資家は安定の兆しが明確になるのを待っています。今後数年で投資家やアセットクラスの多様化が進むことが予想され、ニッチセクター(シニア住宅、データセンター、ライフサイエンスパークなど)やクリエイティブな取引構造(ジョイントベンチャー、アセットスワップ等)での活動が増えるでしょう。上海の市場の深さと流動性は、中国国内で最も早く投資家信頼感を回復させるマーケットの一つとなっています。大きな政策ショックがなければ、同市の不動産は中国の都市成長に投資したい国内外の投資家にとって基盤であり続けるでしょう。
4. 規制および政策環境
上海の不動産市場は政府政策の影響を大きく受けており、過去1年間で業界安定に向けた政策緩和と支援への転換が決定的になっています。投機を抑制するための長期にわたる厳しい措置(2020年以降の“三条紅線”デベロッパー債務規制や購入制限など)の後、中央政府と地方政府の双方が2024~2025年に大規模な救済政策を打ち出し、購入促進やリスク軽減を図っています globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。
住宅購入規制の緩和:上海は一線都市として、従来は厳格な住宅購入規制(HPRs)を課していました。例えば、非地元の家族が住宅を購入するには数年間の納税または社会保険料支払いの実績が必要であり、地元民も購入できる住宅の数に制限がありました。2024年、これらの規制は大幅に緩和されました。上海は、より長期間市内で働いている非地元住民にも住宅購入を認めるよう適格者の範囲を拡大し、市の発展に不可欠な各種人材やキーワーカーを「適格購入者」として認定しました practiceguides.chambers.com。2024年半ばまでには、上海は特定地区で購入規制をさらに緩和するパイロットプログラムも打ち出し、より開かれた住宅アクセスのための試験運用を開始しました practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com。主な変更点のひとつとして、2人以上の子供を持つ家族は通常の制限を超えて追加で住宅を購入できるようになり、大家族がより広い住居を必要としている実情が認められました news.cgtn.com news.cgtn.com。さらに、離婚者の要件も緩和され(最近離婚した本当の購入希望者が不利にならないような抜け穴が解消され)、公的住宅枠を持つ人々にも民間住宅市場に参入する柔軟性が与えられました news.cgtn.com。 これらの段階的な緩和策は、価格抑制から市場活性化の促進、そして住民の「多様な居住ニーズの充足」へと政策の方向転換が慎重ながら明確になされたことを示しています news.cgtn.com news.cgtn.com。
頭金の引き下げと信用支援:購入者の資格緩和と連動して、金融政策もより柔軟になっています。2024年5月、上海当局は住宅ローンの最低頭金比率を引き下げました—初めて住宅を購入する場合は20%(従来は30%)、2軒目の住宅購入では35%(従来は50%以上)となりました news.cgtn.com。一部の郊外区と自由貿易試験区(臨港新区)では、2軒目の頭金割合の下限がさらに30%に引き下げられました news.cgtn.com。これらの引き下げは全国的な動きの一環(中央銀行が都市に頭金・金利引き下げの柔軟性を与えた)であり、購入者の初期費用を減らし、住み替え・アップグレード購入を促進することを目的としています practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com。さらに、上海市は住宅公積金(政府主導の低金利住宅ローン制度)の借入限度額も引き上げ、購入者は有利な金利でより多く借りられるようになりました news.cgtn.com news.cgtn.com。既存の住宅ローン金利も銀行主導で引き下げられ、指標となる5年ローンプライムレートも下がったことで、2024年末には上海の一般的な住宅ローン金利(初回購入)が約4.1~4.3%と、過去数年間で最も低い水準になりました。これらの施策の全てが住宅の手ごろさを高め、2025年初の販売回復の要因とされています。アナリストは、融資条件の緩和と上海の不動産政策の緩和姿勢が、購入者の意欲回復の鍵となったと指摘しています joneslanglasalle.com.cn。
税制優遇と補助金: 追加の政策支援として、減税や財政的優遇措置が講じられました。2024年から、中央政府は住宅購入にかかる契約税を引き下げました。上海では、初めて住宅を購入する場合、140平方メートル未満の住宅には契約税が1%(従来は1.5%)となり、2軒目の住宅購入者は1%(140平方メートル未満の場合)または2%(より大きな住宅の場合、従来は最大3%)となります。practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com これにより、より広い住宅への住み替え時の取引コストが大幅に削減されました。上海はまた、新築住宅の価格上限を撤廃し、開発業者が大幅な値下げをすることを妨げていた規制も廃止した都市のひとつです。これにより、市場は実勢価格で取引が成立しやすくなりました。globalpropertyguide.com 困難な状況にある開発業者や未完成プロジェクトへの対応として、「ホワイトリスト」制度が導入されました。上海は中央政府と連携して停滞したプロジェクトの完了のための資金調達を支援し、地元の国有企業が未販売住宅を購入して手頃な価格の住宅として提供することも認めました。globalpropertyguide.com 2024年末までに、銀行は全国で5,300件以上のこうした「ホワイトリスト」プロジェクト(総額約1兆4千億元)への融資を承認し、住宅購入者の利益を保護し、大幅な値下げによるパニック売りを防ぐのに役立ちました。practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com また、上海は前述の住宅の「買い替え」イニシアティブのような革新的なプログラム(古い住宅を新築住宅とディベロッパー割引で交換)も取り入れ、取引促進をはかっています。practiceguides.chambers.com
都市計画および開発政策: 都市計画の面では、上海はバランスの取れた成長の長期的なビジョンを維持しています。都市のマスタープラン(2017~2035年)は、人口を約2,500万人に抑制し、無秩序な拡大を抑えることを強調し、都市の再生と生活の質の向上に重点を置いています。これに合わせて、古い都市部の再開発(2024年にスラム街改修の補助金が増額されました practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com)や、賃貸住宅および手頃な住宅の供給強化を促進する政策が進められています。例えば、上海では一部の商業用地を賃貸住宅用の住宅地に転換したり、政府補助の賃貸ユニット(時には売れ残りの商業物件を転用)建設を支援しています globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。また、グリーンビルや持続可能性の推進も行われており、上海の新規開発は都市が国家のカーボン削減目標に沿う中で厳しいグリーン基準に導かれています。外国人所有権の規制:国内政策が緩和された一方で、外国人による不動産所有に関する規制は依然として比較的厳格です。一般的に、外国人は上海(および他の中国の都市)で住宅用不動産を一戸のみ購入することが認められており、その住宅は自己使用目的(賃貸や投資目的ではない)でなければなりません globalpropertyguide.com。外国人購入者は通常、中国で1年以上就業または留学して居住し、不動産購入の承認を得る必要があります globalpropertyguide.com。さらに、2006年以降の規制により、外国人が特別な企業を通じてでなければ複数物件をまとめて投資することはできません。これらの規制は、投機的な外国資本の流入を防ぐことを目的としています globalpropertyguide.com。このため、海外からの購入者は、主に駐在員が自己居住用に購入するケースがほとんどで、上海の住宅市場ではごくわずかな割合しか占めていません。商業用不動産においては、外国の機関投資が認められており(上海では国の方針以上の外国人商業不動産購入に特別な上限はありません)、大規模な取引には規制当局への登録や場合によっては資金調達のための外貨管理局の承認が必要となります。上海が自由貿易試験区に含まれたことで、外国企業が自社用オフィスを購入する際の手続きがやや簡略化されました resourcehub.bakermckenzie.com resourcehub.bakermckenzie.comが、外国人による不動産所有権の大幅な自由化は2025年時点でも導入されていませんでした。むしろ、外国企業にとっての環境をよりフレンドリーにすること(例えば賃貸のしやすさ、土地使用権の延長など)に重点が置かれており、外国人の投機的な購入を奨励することはありません。
要約すると、2025年の上海の政策環境は安定した健全な不動産市場を支援することを目指しています。政府のスローガンは「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない——しかし停滞させるためのものでもない」に転換されています。購入規制の緩和、低金利の融資、減税、開発イニシアチブの組み合わせは、バブルを再拡大させることなく、本物の需要を刺激し、在庫を減らすことを目的としています。これらの措置はこれまでのところ、信頼感の強化に一定の成功を示しています news.cgtn.com。今後について、政府関係者は市場を監視し、必要であればソフトランディングを確保するためにさらなる支援策を講じる可能性を示唆しています。たとえば、さらなる金利引き下げや、未販売住宅の政府による直接購入(全国で議論されている措置)が、不況が続く場合に実施される可能性があります globalpropertyguide.com reuters.com。とはいえ、政策担当者は、市場を活性化し、期待感を支えることと、無秩序な投機への逆戻りや長期的な手頃さの確保を回避することの間で、微妙なバランスを取っています。したがって、投資家や住宅購入者は、今後しばらくは一般的に寛容な政策姿勢を上海で期待できるものの、その内容は慎重に地域事情に合わせて調整されることとなるでしょう。5. 経済および人口動態的要因
さまざまな経済および人口動態的要因が、上海の不動産動向を支えており、需要と供給の双方に影響を与えています。
- 経済成長と産業構成:上海は中国の商業・金融センターであり、2024年のGDPは約4.5兆人民元(約7,000億米ドル)です。パンデミックによる減速(および2022年のロックダウン時の顕著な落ち込み)の後、上海経済は2023年に約3.1%成長に回復し、2025年には4.7~5%の成長へと加速する見込みです cbre.com。これは刺激策と回復した消費によって支えられています。この経済パフォーマンスは、所得の増加や事業拡大を通じて不動産市場を支えています。上海の主要産業である金融、専門サービス、貿易、先端製造業(例:半導体、バイオテクノロジー)、およびテクノロジーは、それぞれ異なるタイプの不動産需要を牽引しています。たとえば、活況を呈する金融・フィンテック部門は陸家嘴や浦東でグレードAオフィスの吸収を促進し、一方で製造業や物流セクター(自動車、電子機器、eコマース)は産業用地や倉庫の需要を支えています。さらに、デジタル経済や研究開発へのシフト(指定の「科学技術イノベーション」ゾーンの設立)は、専門的なオフィスや研究施設への需要を生み出しています。全体として、上海の多様で高付加価値な経済は、不動産に堅固な基盤を提供し、単一産業や投機的建設に依存する脆弱な都市とは一線を画しています。
- 人口と人口動態:上海の人口は世界有数の規模で、2022年には正式に2,476万人です。同市の人口増加は緩やかになっており、COVID関連の要因や居住許可の制限強化により、2022年には人口が微減しましたが、これは一時的なものとみられています。長期的には、2025年までに人口を2,500万人程度に抑えることを都市計画で目指し、資源管理を目指しています。人口動態的には、上海は高齢化都市であり、中央値年齢は上昇しており出生率も低い(全国的な傾向と一致)。一方で、豊富な雇用機会と高い賃金水準を背景に、全国から若い専門職や新卒者を引き付け続けています。毎年、ポイント制戸籍制度により数万人の新たな大学卒業者が定住しており、賃貸住宅や初回購入住宅への需要が続いています。高度な教育を受けた労働力と富裕な中産階級(上海の一人当たり可処分所得は全国平均のほぼ2倍)の存在が、質の高い住宅需要や高級住宅市場を牽引しています。一方で、高齢化はシニア向け住宅施設への関心を高め、長期的には持ち家の回転率をわずかに下げる可能性もありますが、当面は都市化と人材集中の効果が高齢化の影響を上回っており、上海は野心的な移住者を引き付ける磁石の役割を果たし、住宅需要の支えとなっています。
- 収入と手頃さ: 上海の住民は中国でも最も高い収入を誇っています。2024年には一人当たりの年間可処分所得の平均が8万元(12,000米ドル超)を超えました。高い収入と家計の貯蓄により、多くの家族が高額なマンション(しばしば家族親族の援助を受けて)を購入できています。とはいえ、不動産価格も非常に高く、住宅の購入可能性は常に課題となっています。上海の住宅価格と収入の比率は20:1を大きく上回っており、アジアで最も高い水準の一つです。これには二つの意味があります。第一に、より小さく手頃な価格の住宅や低所得者向けの補助住宅への強い需要があります。市が公共賃貸住宅や共有所有住宅の建設に取り組んでいるのは、この層にとって重要です。第二に、高価格と手頃さの限界がさらなる価格上昇を抑制する可能性があります。現在の収入レベルでは多くの若い購入者がこれ以上の借金を背負うことができず、これが政府の頭金・住宅ローン緩和の意義となっています。もし収入が年5~8%で伸び続け、住宅価格が安定すれば、住宅の手頃さも徐々に改善し、これまで手が届かなかった層から新たな需要が生まれる可能性があります。
- 雇用とビジネス環境: 上海の雇用市場の健全性は不動産に直接影響します。2022年のロックダウン時には一時的に失業率が急上昇しましたが、その後回復し、2025年初めにおける上海の都市調査失業率は約5%でした。重要なのは、上海がイノベーションと起業のハブを目指していることで、多数のインキュベーターとスタートアップ向けインセンティブ(特にテック分野)を提供しています。活発なスタートアップシーンは新たなオフィス需要(ただし当初は柔軟なワークスペースやコワーキングスペースが多い)につながり、若い労働力を呼び込みます。しかし、2023年に記録的な高さとなった全国の若年失業問題などの課題が地域にも一部影響する可能性があります。高い若年失業率は世帯形成や初めての住宅購入の遅れにつながります。これまでのところ、上海は多様な雇用市場のおかげで他の都市よりもうまく対応しています。
- インフレと金利: 2024~2025年、中国は低インフレ(1%以下、時には消費者物価のデフレ傾向)を経験しました。低インフレと金融緩和策(中国人民銀行の利下げ)により、住宅ローン金利も比較的低く保たれています。不動産にとって、低金利は一般的に追い風となり、開発業者や買い手の資金調達コストを下げます。しかし、極端な低インフレは景気の需要減退も反映しているため、注意が必要です。もしデフレ圧力が続けば、買い手がさらなる値下げを期待して購入を控える可能性があり、これは政策当局も避けたい状況です。総じて、金融政策は今や不動産部門に追い風となっており、2017~2019年の引き締め局面とは異なります。
- インフラと接続性: 上海の広範なインフラネットワーク—世界最大級の地下鉄網、2つの国際空港、深水港、高速鉄道の接続—は不動産の魅力を大いに高めています。進行中のインフラプロジェクトも注目に値します。2025年、上海は主要な建設プロジェクトに2,400億元(330億ドル)を投資する計画です english.shanghai.gov.cn。これには新たな地下鉄路線(例:崇明島への崇明線、嘉定―閔行鉄道路線、2号線・18号線をはじめとする地下鉄延伸)が含まれます english.shanghai.gov.cn、新たな高速鉄道路線(上海―重慶―成都線)english.shanghai.gov.cn、水路やインフラの改善も行われます。2024年に完成したプロジェクトには、上海空港連絡線(虹橋空港と浦東空港を接続)や新たな地下鉄延伸があり、すでに接続性が向上しています english.shanghai.gov.cn。こうしたインフラのアップグレードは、新たな開発エリアを生み出し(例:周辺部の利便性が高まり、住宅用・商業用不動産の魅力が向上)、全市的な不動産価値の押上げ効果があります。前述の5つの新衛星都市にもそれぞれ都心への交通インフラが強化され、より多中心的な都市構造が実現されています。
要約すると、上海の堅調な経済力と人材吸引力は不動産市場にとってプラスであり、各分野での長期的な需要を牽引しています。一方で、高い不動産価格や高齢化社会という課題にも直面しています。政府の方針は、付加価値の高い産業に注力し、イノベーションを促進し、インフラや社会住宅への積極的投資を進めることで、経済・人口動態の変化が持続可能な不動産市場を支えることを目指しています。上海が今後さらに知識集約型のグローバル都市へ進化していく中で、こうした要素が求められる不動産の種類(スマートオフィス、イノベーションパーク、高級賃貸など)を形作ることになるでしょう。
6. 将来の開発プロジェクトおよびインフラ計画
今後数年で上海の都市景観は、市の2025行動計画およびより長期的な2035ビジョンの一環として既に着手されている野心的な開発プロジェクトやインフラ計画によって大きく変貌します。こうした取り組みにより新たな市場が開かれ、交通接続が強化され、戦略的エリアへの成長集中が促進されることで、不動産にも大きな影響が及ぶ見込みです。下記は主なプロジェクト・計画の一部です。
「五大新都市」開発: 上海の将来計画の柱となるのは、都市周縁部に位置する五つの大規模新都市――嘉定区、青浦区、松江区、奉賢区、南匯区(臨港)の開発です。これらは単なるベッドタウンではなく、それぞれ独立した衛星都市として構想されており、2035年までに各都市で50万~100万人の新住民を目標とし、独自の経済的特徴を持っています english.shanghai.gov.cn。2021年に上海はこの戦略を開始し、2025年までに詳細なアクションプランが発表され、建設が加速しています english.shanghai.gov.cn。例えば、嘉定新都市は自動車やハイエンド機器産業に注力し、青浦新都市はデジタル経済(モバイルインターネット「eMobileパーク」を含む)に力を入れています english.shanghai.gov.cn english.shanghai.gov.cn。松江新都市は技術や文化観光、奉賢はバイオテック・化粧品(「ビューティーバレー」クラスターあり)、南匯/臨港は先端製造業(EV、航空宇宙)や海運業に特化しています。各新都市には多くのインフラ投資――新たな高速道路、地下鉄や通勤鉄道の延伸、公共施設の拡充――が行われています。不動産への影響として、これらの拠点は不動産開発のホットスポットとなっています。新しい住宅地、商業地区、物流パークのために広大な土地が割り当てられ、開発業者や投資家を引き付けています。例えば臨港は、特別経済区に指定されて以来、テック系従業員の流入と共に住宅需要が急増し、価格も非常に低い水準から上昇しています。今後10年間でこれら新都市が成熟するにつれ、中心部の圧力が緩和され、新しいサブマーケットが創出されるでしょう。中心部より手頃な住宅価格となるため、初めて家を買う人や若い家族を惹きつける可能性も高いです。すでに2024年5月には、上海が一線都市であるにもかかわらず「住み替え」プログラムに参加し、中心部住民が古い都心部の住宅をこれら新都市の新築住宅に買い替えることを奨励しています practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.com。これは成長を外延的に誘導するという都市の姿勢を示しています。
主要なインフラプロジェクト:上海市政府は、これらの発展および都市全体の効率向上を支援するために多額の投資を行っています。前述の通り、地下鉄網の拡張は進行中であり、上海は2025年までに地下鉄の総延長を830km超にすることを計画しています。2025年末までに完成予定の主なプロジェクトには、地下鉄2号線の西延伸(市外の青浦区への接続性向上)、地下鉄18号線第2期工事、そして20号線のような全く新しい路線の進展があります。 english.shanghai.gov.cn english.shanghai.gov.cn 特に変革的なプロジェクトは崇明島連絡であり、新たな崇明線(地下鉄または鉄道路線の可能性あり)が長江の河口に位置する広大な崇明島を上海の都市交通網に統合します。english.shanghai.gov.cn これにより、これまで主に農村や生態重視だった崇明島での不動産開発が促進される可能性があります。加えて高速鉄道の拡張にも注力しており、上海は上海・成都高速鉄道の東端となり、全国を横断します。english.shanghai.gov.cn 完成すると(2020年代後半)上海は内陸省との結びつきが強化され、新たな鉄道ハブ周辺での商業活動(それに伴うオフィスやホテル需要)も増加する見込みです。さらに遊東港(水路)改良プロジェクトも進められており、english.shanghai.gov.cnこれは技術的な側面はあるものの、上海の航運能力を高め、浦東や宝山など港湾関連の産業用不動産開発を促す可能性があります。さらに、上海は空港能力の拡充も進めており、浦東国際空港では新ターミナルおよびサテライトコンコースが建設中であり、将来の第3空港の計画も進行中です。これらすべてのプロジェクトは、2025年の過去最高の2,400億元のインフラ予算を背景に、english.shanghai.gov.cn 建設活動を創出するだけでなく、不動産開発にとって市内のより多くのエリアを移動時間短縮により実現可能なものとしています。
著名な商業および文化開発: 上海市では、スカイラインや文化的オファリングを強化する複数の目玉プロジェクトも進行中です。一例として西部の青浦地区で建設中のレゴランド上海リゾートがあり、2024~2025年ごろの開業が見込まれています cambridgenetwork.co.uk。この大型テーマパーク(中国初のレゴランド)は周辺の観光業や開発を促進する可能性が高く、ホテルや小売店、来場者のための交通インフラも整備されるでしょう。もう一つは上海張江サイエンスシティで、これは単一プロジェクトではなく、拡大し続けるイノベーション地区です。2025年には国家レベルの研究施設「張江実験室」などの新たな旗艦施設が完成予定です cambridgenetwork.co.uk cambridgenetwork.co.uk。このようなプロジェクトは上海のテックエコシステムを強化し、研究者向けのオフィスや研究所、住宅の需要を高めます。文化面では、西岸・北外灘の再開発が続いています。これらは元の工業用水辺エリアを、アートミュージアムやギャラリー、オフィス(西岸)および新しい金融センターのクラスター(北外灘)を含む複合用途エリアへと転換するプロジェクトです。今後10年で数百万平方メートル規模の商業スペースが供給されます。また上海は、多くの新しい大学や病院のキャンパスも建設中で、多くは郊外地区に位置し、そのコミュニティの核となります。これにより周辺の住宅や小売の開発も促進されます。
都市再生: 上海の将来の開発は新しいエリアに限らず、古い市街地の再生も重要です。市は老朽化した住宅地区の多くを改修や再建の対象として特定し、エレベーターのない集合住宅への増設や緑地整備、場合によっては老朽化が進んだ路地(里弄)を解体し、現代的な住宅へ建て替える計画もあります。注目すべき取り組みとしては、黄浦区や虹口区中心部の一部で歴史的建築を保存しつつ、現代的で混合所得層向けの住宅を創出する再開発計画です。個々の規模は小さいものの、全体として中心市街地の資産価値と生活環境を改善し、主要な中心地の不動産が老朽化することなく進化を続ける役割を担います。
不動産市場への影響:これらのプロジェクトや計画にはいくつかの影響があります。インフラの改善(地下鉄路線や道路)は、通常、新たに接続された地域で不動産価値の上昇をもたらします。たとえば、新設される18号線延伸の駅周辺では、期待から価格が上昇し始めています。アクションプランで示された新たな産業・科学パークのような施設は、地域ごとのオフィス・産業サブマーケットを生み出し、それに伴い近隣での労働者向け住宅需要も増加します。五つの新都市が成功すれば、上海は複数の第二CBDを持つ多極化した不動産市場となり(東京やロンドンが複数のビジネス拠点を持つのと似ています)、需要が分散することで価格の極端な上昇を抑える効果もありますが、これらの中心地が繁栄すれば新たな高級エリアも誕生します。その準備として、上海市政府は2025年4月に「ボトムアップ」アプローチを強調し、各区の政府がこれらの新都市で産業を誘致し、コミュニティを計画する権限を持つと発表しましたenglish.shanghai.gov.cn。これは強力な政治的な後ろ盾を意味しており、これらの開発にとって好材料です。
全体として、上海の将来の開発アジェンダは大胆かつ包括的であり、交通、産業、住宅、文化などあらゆる分野に及びます。投資家やデベロッパーにとっては、発展途上の新しい地域や新たなアセットタイプ(例:奉賢区の産業パーク、青浦区のクリエイティブ産業パーク、松江区の観光施設など)で多くのチャンスが生まれます。また、これにより競争環境も変化し、これらの取り組みが実現するころには都心部だけが注目される時代ではなくなります。2030年ごろまでには、上海は今よりも広がりのある都市となり、住宅の選択肢も増え、中心部の混雑も緩和されるでしょう。その大部分は、2025年に蒔かれるこれらの種のおかげです。
7. リスクと不確実性
上海の不動産の見通しには多くの好材料がありますが、重大なリスクや不確実性がないわけではありません。関係者は、今後数年で市場に悪影響を及ぼす可能性がある以下の主要リスク要因に注意を払うべきです。
- マクロ経済の逆風:中国全体の経済動向が最大のリスクとなっています。予想を下回るGDP成長や経済の急激な落ち込みが起これば、住宅需要や企業の拡大意欲が低下します。現在、中国経済は消費者信頼感の低下、高い若年層失業率、輸出需要の弱さといった課題に直面しています。これらの問題が長引く、または悪化した場合、経済が堅調な上海であっても、不動産取引や吸収の減少という形で影響が現れるでしょう。例えば、GDP成長率が目標を大きく下回れば、家計は高額商品の購入(住宅)を先送りし、企業も拡大を凍結する(オフィス需要の減少)可能性があります。前述のロイター世論調査がこの懸念を示しており、アナリストたちは少なくとも2026年までは不動産市場全体の回復を期待していませんreuters.com reuters.com、慎重な姿勢が反映されています。さらに、COVID-19の再拡大や類似のショックが経済活動を妨げる可能性もあります。ただし、上海の多様化と、最近の利下げや国債を利用したインフラ投資に見られる政府の景気刺激策の実行力が、一定の緩衝材となっています。
- 不動産市場の構造的課題:中国の不動産ブームの後遺症が依然として影を落としています。主なリスクは、過剰供給とデベロッパーの債務の持ち越しです。全国的に、未販売住宅(特に地方都市)や未完成プロジェクトが多く、買い手の信頼を損なっています reuters.com reuters.com。上海では高い需要によりこの問題は比較的軽度ですが、完全に無縁とは言えません。上海にプロジェクトを持つデベロッパー(エバーグランデや融創のようにデフォルトに直面した企業も含む)が納品できない場合、地元の市場心理に影響を及ぼす可能性があります。これまでのところ、上海市政府はホワイトリスト融資支援などを通じて地元プロジェクトの完成を積極的に促進しています practiceguides.chambers.com practiceguides.chambers.comが、デベロッパーの財務的な負担は依然としてリスクとなっています。これにより新規分譲が減少したり、現金化のために価格が大幅に割り引かれることで市場全体の価格下落につながる恐れがあります。さらに、オフィス分野における高い空室率と過剰供給は長期的な構造課題であり、解決には数年を要する可能性があります。空室率が長く高止まりすると苦境売却が発生し、市全体の不動産評価額を押し下げる圧力となる可能性があります。
- 地方政府の債務と政策の限界:中国の地方政府(上海も含む)は、不動産不況での土地売却収入の減少の影響もあり、多額の債務を抱えています。上海は債券によるインフラ大型投資を計画しています english.shanghai.gov.cn english.shanghai.gov.cnが、他の省で問題化しているように地方債務の懸念が深まれば、投資や補助金を続ける能力が制約される可能性があります。公共投資が縮小すれば、不動産や建設分野への重要な下支えが失われます。さらに、現在は政策緩和が進んでいるものの、当局が行える範囲には限界があります。行き過ぎれば投機リスクが再燃したり、格差問題が生じる懸念もあります。例えば、上海で購買制限を全面撤廃すると過熱状態となる可能性があり、政治的にもデリケートな問題です。政府は「住宅の手頃さ」を確保しつつ、再びバブルが発生しないよう、景気刺激策とのバランスを取りながら政策運営を続ける必要があり、これは常に綱渡りの課題となっています。
- 地政学および外部リスク: 上海はグローバル都市として、国際的な要因にさらされています。米中の貿易およびハイテク摩擦はすでに影響を及ぼしています。関税や輸出規制により一部の製造業が打撃を受け、外資系企業の間にも警戒感が広がっています。ロイターの調査では、貿易戦争の激化が住宅購入者心理や経済成長をさらに冷やす要因になると指摘されています reuters.com。最悪のシナリオでは、地政学的緊張(貿易戦争が金融のデカップリングや制裁に発展)が急激に高まれば、多国籍企業が中国ビジネスを大幅に縮小し、商業不動産への需要が減少する可能性があります。また、海外からの資本流入が制限されたり、中国人投資家が国内よりも海外に投資したくなる(資本流出)ことで不動産投資が冷え込む恐れもあります。さらに、世界的な金融状況も重要です。中国の金利は緩和傾向にありますが、もし世界的に金利が高止まりしたり、別の金融危機が起これば、流動性が制約されることになります。上海の不動産は中国の資本規制により比較的グローバルな信用市場からは守られていますが、大規模な世界的景気後退が起これば、輸出依存型ビジネスや高所得層投資家の資産に打撃を与え、間接的に不動産にも影響が及ぶでしょう。
- 政策実行と社会的課題: 上海の野心的な計画の実行や成功にも不確実性があります。「五新都市」が十分な産業や住民を惹きつけられなければ(例えば、人々が依然として上海中心部を好む場合や、各拠点で雇用創出が進まない場合)、インフラ設備の未利用や郊外市場の過剰供給につながる可能性があります。政府はこうした計画で成長を誘導しようとしていますが、計画が期待通りに進まない場合、大きな後退となります。都市再開発のための移転に対する市民の受け入れも課題で、立ち退きや移転への反発は再開発プロジェクトの進行を遅らせる恐れがあります。また、大都市にありがちな交通渋滞、環境問題、公共サービスの提供なども不動産の魅力度に影響を与える要素です。上海は汚染や気候リスク(沿岸都市であるため、長期的な海面上昇のリスクも考慮)にも対処しなければなりません。これらは直近の問題ではありませんが、持続的な発展には重要な要素です。
- 市場心理と信頼感: 最後に、無形ながら極めて重要なリスクが市場への信頼です。中国の不動産セクターは2021年以来「信頼の危機」とされてきました。もし購入者や投資家が価格が下がり続けると信じていれば、彼らは引き続き様子見を決め込み(それが自己実現的に市場を冷え込ませる)、信頼の回復が鍵となります。現在進行中の政策は信頼回復を目指すもので、2025年初頭には前向きな動きも見られました news.cgtn.com。しかし、上海で有力デベロッパーのデフォルトや、突然の政策転換などがあれば、市場心理は再び急速に悪化する可能性があります。
結論として、上海の不動産市場はほとんどの市場よりも回復力が高いものの、マクロ経済の不確実性、構造的な過剰、外部要因による下方リスクに直面しています。都市の堅固なファンダメンタルズや政策支援はこれらのリスクをある程度緩和しているものの、関係者は回復が遅れるシナリオや、逆風が強まった場合の価格修正の領域などの可能性についても計画を立てておくべきです。投資先を不動産タイプごとに分散し、健全なレバレッジを維持するなど、慎重な対策が推奨されます。上海は過去にも(2003年のSARSや2008年の世界金融危機、2022年のロックダウンなど)数々のサイクルや衝撃を乗り越えてきており、その度に不動産市場は力強く回復してきました。したがって、現在の環境には慎重さが求められるものの、これらの主要リスクが適切に管理され段階的に解消されれば、上海の不動産の長期的な成長軌道は概ねポジティブであると言えるでしょう。
結論
2025年時点で、上海の不動産市場は転換点に差し掛かっています。住宅セクターは安定化し、特に高級物件では堅調な需要と政策支援に支えられて活況を呈しています。商業セクターは課題に直面しており、特にオフィスや物流スペースは高い空室率とテナント有利の状況による調整期に入っていますが、上海がビジネス拠点であることから質の高い資産への需要は根強いです。価格下落や融資緩和を背景に投資家の信頼も徐々に回復しており、政策当局が市場を「ソフトランディング」と持続可能な未来に導く舵取りを行っています。上海の経済・人口の基礎条件は、多くの都市が持たない豊かさ、成長(やや高齢化)傾向、イノベーション主導の産業構造により強固です。さらに、新都市やインフラへの先見的投資も、単なる回復にとどまらず、新たな成長と都市進化の時代を見据えた動きであることを示しています。
今後、上海は短期的な市場安定化と長期的な戦略的発展を引き続きバランスよく推し進めると考えられます。現在の調整後には、住宅価格は緩やかな成長が見込まれ、特に高級物件分野は引き続き堅調でしょう。オフィスマーケットの回復は緩やかですが、過剰供給が抑え込まれたり、テクノロジーや金融など新たな経済機会が生まれることで、吸収率は改善していくはずです。2020年代後半には、上海のスカイラインや地下鉄路線図が拡張し、嘉定や臨港など新サブセンターが誕生するなど、都市が現代の課題に適応していく姿が見られるでしょう。もちろんリスクは残り、上海の将来は中国や世界の動向と密接につながっていますが、過去に学ぶならば、上海の活力と戦略的重要性は、これらの困難を乗り越え、今後も中国不動産市場の最前線に立ち続けることを示唆しています。
出典:
- JLL上海不動産市場レビュー、2025年第1四半期 joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn joneslanglasalle.com.cn
- CBRE 中国不動産市場見通し2025 cbre.com cbre.com
- グローバルプロパティガイド – 中国住宅市場分析2025 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com
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