イントロダクション
欧州連合(EU)の不動産市場は、2025年において転換期を迎えています。インフレ率の急騰、急速な金利上昇、パンデミック期の混乱という波乱の時期を乗り越えた後、住宅および商業セクターの双方が慎重な回復局面に入っています。インフレの鈍化や初の利下げなど、マクロ経済の安定化によって投資家や開発業者にとって予測可能性が高まりました。pwc.com mediaassets.cbre.com。一方で、根強い住宅供給不足やパンデミック後のテナント需要の変化が、EU加盟国全体の市場動向を形作っています。本レポートでは、2025年のEU不動産市場の全体像をマクロ経済の背景、住宅および商業セクターの動向、主要国市場(ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、オランダ、ポーランド)、価格、需給バランス、投資フロー、建設活動、政策変更、そして2028年に向けた展望まで幅広く分析します。主なテーマは、高水準でありながらも安定化しつつある金利の影響、サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)対応への推進、そしてリスクが残る中で顕在化する新たな機会です。
2025年のマクロ経済的状況
2025年のヨーロッパ経済の背景は、緩やかな成長とインフレの鈍化です。2023年は景気後退をギリギリ回避した後、EU経済は2025年に約1.1%成長と見込まれており、ユーロ圏は1%やや下程度が予想されています。economy-finance.ec.europa.eu この控えめな成長率(2024年とほぼ同等)は、依然として脆弱な消費需要や外的な不確実性を反映しています。特に、スペインとポーランドは平均を上回るGDP成長(約2.5〜3%以上)が予想される一方、ドイツは、直近の産業停滞の影響で約0.8%と低調が見込まれています。mediaassets.cbre.com フランスとイタリアは、消費や輸出需要の減速によってほぼEU平均の1%成長程度となりそうです。cbre.fr
不動産市場にとって重要なのは、インフレが2022年のピークから大幅に鈍化している点です。ユーロ圏の総合インフレ率は2025年にほぼ2.1%(2024年は2.4%)まで低下が予想され、pubaffairsbruxelles.eu 2025〜2026年にはECBの2%ターゲットに接近する見込みです。このディスインフレとコアインフレ率の減速により、欧州中央銀行(ECB)は大胆な金融引き締めを停止し、やや緩和しました。2023年末に4%まで上昇した預金ファシリティ金利は2024年半ばから利下げに転じ、2025年4月には政策金利が約2.25%まで低下しました。economy-finance.ec.europa.eu 他の欧州各国中銀も同様の動きを見せています。その結果、2025年の借入コストは2010年代比で依然高いものの、2023年ピーク時からは鈍化し、借金依存型セクター(不動産等)への圧力が軽減されました。例えばフランスの住宅ローン平均金利は2025年初めには約3.3%に低下し(ピーク時3.5%以上)、ポーランド中銀も政策金利を6.75%→5%程度まで引き下げ、買い手の購買力を後押ししています。
金利の影響は二面的です。一方で、2022〜2023年の急激な金利上昇が住宅取得の手ごろさ(アフォーダビリティ)や投資額を大きく損ないましたが、もう一方で、2025年時点での金利安定とやや低下により市場心理は改善しています。デベロッパーや住宅購入者は、今後の資金調達環境が急激に悪化するのではなく、徐々に改善していくとの確信を持ち始めています。pwc.com 実際、金融環境は取引に対してより好意的(プラスのレバレッジが「再び可能」)となり、負債コストが低下し収益利回りスプレッドが安定したことで取引環境が整いつつあります。cbre.com cbre.com ただし、金利水準は2010年代の超低水準には戻らない見込みです。mediaassets.cbre.com 長期国債利回りは高止まりしており、不動産価格が再上昇できる上限を定めています。大勢としては、2024年が投資の景気循環的な底であり、2025年には段階的な回復が見込まれるものの、大幅なブームにはならないとの見方です。cbre.com
もう一つのマクロ要因は地政学的な不確実性です。ウクライナ戦争や世界的な貿易摩擦により、エネルギー価格と企業信頼感は依然不安定です。ヨーロッパのガス・エネルギー価格は2022年ほどの高値ではないものの、新たなショックが発生すれば再度のインフレ加速・金融政策の利下げ停止を余儀なくされる恐れがあります。pwc.com また、ドイツの選挙や米国の通商政策変更など政治イベントも成長や投資家心理へのリスクとなっています。reuters.com reuters.com とはいえ、現時点で2025年までの基本シナリオは、目立たないが安定的な経済成長・インフレ鈍化・金利の高原(横ばい)であり、これは過去2年より不動産取引にとって安定した環境をもたらしています。
住宅不動産の動向:需給逼迫下の回復
2025年のヨーロッパの住宅市場は、回復力と制約が入り混じる状況を示しています。2022~2023年に多くの国で下落または伸び悩みを見せた後、2025年には住宅価格は全般的に安定または回復傾向となっています。これは慢性的な供給不足と、資金調達環境の改善による買い手の自信回復が背景です。一方で、地域間の格差は非常に大きく、一部市場は新高値を記録する一方、他は下落の底打ちとなったばかりです。
図:EU各国における名目住宅価格の伸び率、2023年第4四半期(青い棒)と2024年第4四半期(黄色い棒)の前年同期比比較。多くの市場が2024年末までに下落から回復に転じた。左側の複数国(スペイン、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ハンガリーなど)では2024年に二桁の価格上昇を見せる一方、ドイツ、スウェーデン、フランス(右側)は微増または小幅続落にとどまった。economy-finance.ec.europa.eu これは欧州住宅市場の回復のばらつきを示しています。
価格動向:ユーロスタットのデータによると、EU全体の住宅価格は2024年に約4%(名目)上昇し、2025年も上昇が続くと見込まれていますが、国によって上昇幅は大きく異なります。ドイツでは、欧州最大級の調整が起こり、2022年から2024年半ばまでに~12%下落しました。reuters.com しかし以降は下げ止まり、2024年第4四半期には9四半期ぶりに+1.9%(前年同期比)の年率上昇を記録しました。globalpropertyguide.com 予測ではドイツの住宅価値は2025年に約3~3.5%回復する見通しですが、経済や政治の不透明感が続けば下振れリスクもあります。reuters.com reuters.com フランスでは、住宅価格は穏やかに下落が続き、既存住宅では2024年第3四半期に前年比–3.96%となりました。globalpropertyguide.com しかしその減少幅は縮小傾向で、2025年初には–0.7%まで減速し、2024年末ごろに価格の底打ちが見込まれています。globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com パリのアパート価値も2024年に約5.5%下落(13四半期連続)globalpropertyguide.comしましたが、2025年には信用状況改善や政府支援策の浸透により価格は安定化する見通しです。
これとスペインの住宅市場が好調であることを対比してみましょう。スペインの住宅価格は2024年に平均+11%上昇し、これは2007年以来最速の伸びとなり、2025年第1四半期でも前年比約11.2%の上昇を維持しています globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。力強い国内需要、外国人バイヤーの回帰、成長する経済(2%以上の成長)によって、多くの報道でスペイン市場は「2025年を通じて好調」と伝えられています idealista.com。保守的な予測でも、スペインの価格は2025年にさらに5〜8%上昇すると見込まれています spanishpropertyinsight.com spanishpropertyinsight.com。ポーランドもまた堅調な価格上昇を記録しています。高インフレや賃金上昇に支えられ、ポーランドの中古マンション価格は2025年初めに前年比約8%上昇(新築では約4〜6%上昇)しました globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。2023年には販売件数が大きく落ち込みましたが、利下げと政府の初回購入者向け2%住宅ローン補助プログラムによって、ポーランドではバイヤー需要が回復しつつあります globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。オランダもまた一例です。2023年の一時的な下落の後、オランダの住宅価値は2024年に+8.7%上昇し、過去最高を更新しました abnamro.com。銀行は2025年も約7%の上昇を予測しており、住宅ローン金利低下、所得上昇、そして住宅不足が主な要因と挙げています abnamro.com。実際、オランダの住宅価格は2023年を除き、近年は毎年7%以上上昇しています abnamro.com abnamro.com。市場が弱かった場所でも、反転の兆しが見えます。スウェーデン、オーストリア、ドイツは2023年に大きな調整がありましたが、2024年末には控えめながらも価格がプラス成長に戻りました。一方、フランスとフィンランドは、依然としてわずかな年間下落を示す最後の主要市場でした economy-finance.ec.europa.eu。全体として、2025年には欧州の大半の住宅市場で価格上昇が見込まれています。これはサイクルが上昇局面に転じているからです fitchratings.com。
需要と供給のダイナミクス:住宅価格を支える重要な要素は、住宅需要と供給のアンバランスです。簡単に言えば、ヨーロッパでは世帯形成や都市への移住のトレンドに十分に対応できるだけの住宅供給がなされておらず、この不足は最近さらに深刻化しています。2022年以降、住宅供給は急激に縮小しており、開発業者は高い金利負担、資材価格の上昇、許認可のボトルネックの影響で建設を控えています economy-finance.ec.europa.eu economy-finance.ec.europa.eu。EU全体の住宅竣工は2023〜2024年で激減(2桁パーセンテージの落ち込み)、建築許可件数は数十年ぶりの低水準に economy-finance.ec.europa.eu。たとえばドイツでは新築住宅の建設が崩壊状態で、2023年の許可は約27%減少、着工は25%減と、2000年以来の最低水準です globalpropertyguide.com。ドイツでは、修正後の目標でさえも必要戸数(年間約32万戸)にはるかに届いておらず、政府の調査では2030年までに約250万戸の新規住宅が必要で、これは現在の供給ペースを大幅に上回ります globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。不足は顕著で、あるドイツの住宅経済学者は「必要な住宅建設数と実際の建設数との間に巨大なギャップがある」と述べています globalpropertyguide.com。これは、特に人口増加(移民が続くベルリン、ミュンヘン等)都市部の住宅不足を激化させています。それぞれの都市では毎年数万戸の新規住宅が必要です globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。
同様の状況はEU全域で見られます。フランスの住宅建設は長期低迷中で、2023年には許可・新規着工が前年比約23〜25%も激減しました globalpropertyguide.com。2024年はさらに悪化する見通しで、業界団体は「壊滅的」と表現しています globalpropertyguide.com。2024年のフランス新築住宅着工戸数はわずか約26万戸と、少なくとも2000年以降で最低です globalpropertyguide.com。建設業者は(ウクライナ戦争後の)材料費高騰、新たな環境規制によるコスト増に直面し、購入者は高金利に苦しんでいます globalpropertyguide.com。政府は2025年半ばの安定化を期待していますが、フランス建設連盟は2025年も停滞が続き、着工は約23万9,000戸にとどまると予測しています globalpropertyguide.com。イタリアも建設が弱く、2024年も新規許可戸数は再び減少(2023年-7.7%減少の後さらに-0.2%)で、約5万5,000戸と、2000年代中頃の数分の一です globalpropertyguide.com。この長期的な減少(2000年代は年間25万戸以上建設されていたのが今や約5万戸)も、需要が高い都市での供給逼迫に拍車を掛けています globalpropertyguide.com。好調なスペインでさえ、建設は慎重な回復にとどまっています。2024年の着工は約11万2,000戸で前年比14.5%増ですが、このペースもスペインの需要にはまだ不十分で、2008年以前と比べるとはるかに少ない水準です。ポーランドはヨーロッパで最も成長が速い市場の一つですが、2022〜2023年の住宅竣工は高金利の影響で20%以上減少しました。ただし金利が下がれば一定の回復が予想されています globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。要するに、高い資金調達・建設費用、規制の壁、用地供給の制約によって新規供給はほぼどの国でも抑え込まれており、需要要因(都市部人口増、世帯規模縮小、賃金上昇)は依然として強いままです globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。多くの国で賃貸住宅の空室率が過去最低となり、良質物件を巡る買い手の競争が激化しています。
需要の側面では、世帯形成と移住が住宅需要を高い水準に保っています。たとえばドイツは、過去10年間で人口を3%増加させました(主に移民による)。この人口増加は大都市に集中しています globalpropertyguide.com。ポーランドは100万人を超えるウクライナ人難民を受け入れており、その多くが現在住宅を借りたり購入したりしています globalpropertyguide.com。全体の人口が停滞している地域でさえ、単身世帯へのシフトや都市化の継続が住宅需要を支えています。したがって、需要がヨーロッパの多くの地域で供給を上回っています。これは住宅価格の下支えとなり、購入力の厳しさにも関わらず価格を維持しています。欧州委員会は2024年の時点で、多くの加盟国において「新規住宅の供給制約が住宅価格の上昇を続ける主要要因の一つとなっている」と指摘しています economy-finance.ec.europa.eu。この傾向は特に供給が極端に不足しているオランダのような市場で顕著であり、2024~25年にも価格の上昇傾向が続いています abnamro.com。 家賃と賃貸市場:供給のタイトさは家賃の上昇も招いており、一部の国では家賃上限制を導入しています。ドイツはいまだに賃貸市場が優勢で(世帯の52%以上が賃貸 globalpropertyguide.com)、強い需要が2024年の家賃を約3.5%押し上げました(2023年の5%からは減速)globalpropertyguide.com。家賃上昇が著しいのはアイルランド、オランダ、中欧諸国です。特にオランダの住宅賃料は2025年に最大7~8%上昇すると見込まれており、インフレ連動によるほか、新規規制により私的大家が物件を売却(賃貸供給を減少)するためです iamexpat.nl abnamro.com。ポーランドでは賃貸需要(ウクライナ人家族の増加)により家賃や利回りが上昇し、都市部では賃貸総利回りが平均6%を超えています globalpropertyguide.com。一部の国では賃貸住宅の在庫が実際に減少しています。たとえばオランダでは2024年に導入された新たな家賃統制法や課税により小規模大家が物件を売却し、所有者による入居へとシフトしています abnamro.com。このような「元賃貸住宅の自家化」はドイツやスペインでも見られ、さらに賃貸供給を圧迫し、結果的に長期的には賃貸の手頃さを悪化させる可能性があります mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。このように入居者の負担力が低下するなかで、政策担当者には介入の圧力がかかっていますが、家賃上限制のような措置は投資意欲を減退させ、長期的には供給を減らす可能性があります mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。 住宅ローンファイナンスと手頃さ:2023年末から2024年初頭にかけて住宅ローン金利が急騰し、住宅取得の手頃さが大きく悪化しましたが、2024年には状況が徐々に改善し始めました。EU全体で、世帯の借入能力は2022~23年に急激に低下し――所得が上がらずローン負担が増したため、多くの購入者が購入を延期しました economy-finance.ec.europa.eu economy-finance.ec.europa.eu。住宅ローン貸出の伸びはマイナスに転じ、価格も一時下落しました。現在では金利が微減し始めており、借入能力は2024年に大きく回復し、住宅価格の上昇を上回っています economy-finance.ec.europa.eu economy-finance.ec.europa.eu。これは住宅市場の重要な「転換シグナル」とされます――金利3.5%や4%で締め出されていた買い手も、金利が2.5~3%程度まで下がれば再参入できるためです。それでも、住宅取得の手頃さは依然として厳しく、住宅価格と借入能力の比率は長期平均を大きく上回っています economy-finance.ec.europa.eu。つまり、住宅取得には引き続き歴史的に高いコストがかかるということです。多くの国では過去5年間、実質住宅価格が所得の伸びを上回り、手頃さのギャップが拡大しています economy-finance.ec.europa.eu。貸出基準の厳格化(例:オランダやポーランドの銀行による厳格な債務比率規制)がリスクを抑制している面もあり、ABN AMROも家計の「金融面の安定」を強調しています abnamro.com。しかし今後は、購入力の制約が価格上昇ペースを抑える要因になるでしょう――特に直近の上昇が著しかった市場(スペイン、オランダ等)は、買い手の資金的余力が限界に近づくにつれ落ち着きを見せるでしょう。 カントリースポットライト ― 住宅市場:- ドイツ:需要旺盛、建設低迷、回復は慎重。 ドイツの住宅不足は深刻で、大都市は「著しい需給不均衡」に直面しています globalpropertyguide.com。2025年の新政権公約は建設促進(許認可の迅速化や宅地供給拡大など)globalpropertyguide.comを掲げましたが、効果が表れるのは先です。2年間の価格下落を経てドイツ住宅価格は安定化。2024年後半には前年比約1~2%の名目価格上昇が見られました globalpropertyguide.com(実質では横ばい~微減)。2025年は緩やかな価格上昇(約3%)が予想されています reuters.com。リスクとしては2023~24年の低迷する経済 reuters.comや2025年連邦選挙に向けた政策不透明感 reuters.comが挙げられます。家賃も依然上昇中ですが、年間3~4%とやや鈍化しています globalpropertyguide.com。ドイツでは半数以上が賃貸暮らしで購入可能な住宅が少ないため、政策的に供給拡大のプレッシャーが強まっています。これを怠れば今後も2025~2028年にかけて家賃・価格とも上昇が続くでしょう(ただしペースは緩やか)。
- フランス:小幅な調整後の下げ止まり。 フランス住宅市場は2021~2024年にかけて緩やかな価格下落(実質で累計約5~10%下落)を経験。2024年末時点で中古住宅価格は前年比約4%減 globalpropertyguide.com。ただし下落ペースは大きく鈍化し、2025年2月には年率-0.7%程度の下落に留まる見込み globalpropertyguide.com。パリもピーク比約5%安となり、やや購買余力が改善 globalpropertyguide.com。2025年は安定化~小幅上昇への転換点となる見込みで、政府の購入支援策(無利子ローン、ローン期間延長など)や与信緩和が見込まれます globalpropertyguide.com。ただし新規住宅建設は2024~25年で数十年ぶりの低水準 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.comであり、新築在庫の減少は取引件数を制限する一方で価格下支え要因にもなりそうです。マクロ経済状況(2024~25年はGDP成長ほぼゼロ・失業率上昇 cbre.fr cbre.fr)は住宅需要に追い風とは言えませんが、低供給や堅調な家計の貯蓄が下支えとなっています。2025年は価格は横ばい~微増、2026年には若干の再上昇もあり得ます。なお地域格差が大きく、パリは2番都市の回復に遅れる可能性あり。
- スペイン:活況市場、幅広い成長。 スペインはヨーロッパでも際立って好調な市場です。住宅価格は2023・2024年に年率約8~11%上昇 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。2025年も強気予想(例:Fitchが+6~8%)spanishpropertyinsight.com spanishpropertyinsight.com。背景には成長する経済(GDPは2025年に約2~2.5%増 mediaassets.cbre.com)や低失業率、外国人投資家・観光客の回帰があります。金利上昇下でもスペインの購入者は固定金利ローンの選択肢や所得増により恩恵を受けています。建設は回復傾向――住宅着工件数は2024年に+14.5%増 globalpropertyguide.comですが、供給は需要増にまだ追い付かず、物件争奪の状況に変化はありません。沿岸部やマドリード/バルセロナで価格上昇が顕著、内陸部はやや安定的です。家賃も上昇中。2023年制定の新住宅法で「ストレスエリア」では家賃上限制・手頃賃貸への減税策が始まっています。これにより都市部での上昇はやや抑えられますが、住宅価格の勢いと賃貸供給の少なさから2025年も家賃インフレ5%超が想定されます。総じて外的ショックがなければスペインの展望は好調で、この活況は2026年まで継続しそうです(今後は手頃さからの上昇ペース鈍化は必至)。
- イタリア:制約下での緩やかな成長。 イタリアの住宅市場は比較的低調でした。長年の停滞を経て2021~2022年頃に上向き、その後は横ばい。公式統計では2024年第4四半期に前年比約4.5%の価格上昇(3年ぶりの高水準)globalpropertyguide.comですが、新築住宅は特に建設費転嫁で+9.3% globalpropertyguide.com。一方、民間データでは2025年第1四半期に前年比約2.6%下落(実質-4.6%)と軟調傾向も globalpropertyguide.com。つまり、イタリアの市場は実質では横ばい、名目で僅かな上昇が続く構図です。主要都市ミラノ・ローマはパフォーマンスが良く、ローマは2025年第1四半期で+3.4%、ミラノは新高値 globalpropertyguide.comと超過気味ですが、地方都市は低迷・微減も。需要は落ち着き、2024年初の取引件数は前年並み globalpropertyguide.com。供給面は依然逆風――イタリアの新築住宅着工はあまり増えておらず、2024年も約5.5万戸で横ばい globalpropertyguide.com。2021~22年に建設を押し上げた「スーパー・ボーナス110%」制度は打ち切られ、建設業の仕事量も減少 globalpropertyguide.com。一方、貸出環境はやや改善(伊中銀発表ではローン拒否減少)globalpropertyguide.com。2025~2027年は住宅価格がインフレ並み(年2%程度)でじわじわ上昇する見通し、バブルも大幅下落もなし。北部都市(ミラノ等)が引き続き南部より活発。
- オランダ:力強い反発、供給不足継続。 オランダはパンデミック時に急騰(2021年+15%)後、2022~23年は金利急上昇で調整を挟みましたが、それは短期間で、2024年半ばには再び価格が上昇、2024年末は+8.7%の価格上昇で過去最高値を更新abnamro.com。要因は構造的な住宅不足(数十万戸規模)、賃金上昇、ローン市場の急速正常化など。2025年には約7~9%の価格上昇が予想され abnamro.com abnamro.com、2026年には手頃さの壁で3~5%へと減速見込み。なお、地方都市・農村部主導の上昇で、アムステルダムなど大都市はややスローダウン abnamro.com。これは政府による投資用賃貸の規制強化や家賃統制導入予定が都市部の大家売却→自家居住に拍車をかけ供給が相対的に増加したためです abnamro.com。売買件数も増加しており、ABN AMROは2025年販売予想を前年比+5%へと上方修正。多くの大家が新規制導入前に急ぎ売却していると指摘 abnamro.com。ただ全体の住宅供給は依然としてタイトで、新築供給も環境規制(窒素排出制限等)や労働力不足で伸び悩み。オランダ住宅市場の展望は引き続き価格・家賃とも上昇だが、2025年以降はペースは鈍化、初回購入層の手頃さ問題は継続。
- ポーランド:高成長ポテンシャル、外部要因に左右。 ポーランド住宅市場はこの10年で大きく拡大、2022~23年は高金利で一時減速も引き続き成長トレンド。2025年初頭も大都市では年5~10%の価格上昇が継続 globalpropertyguide.comglobalpropertyguide.com。2023年は販売件数が前年比-31%急落(ローン高騰で)globalpropertyguide.comも、インフレ減速・中銀の利下げ連発で「緩やかに楽観的」な雰囲気が戻っています globalpropertyguide.com。2023年夏導入の新制度(若者向け固定2%ローン補助)が手頃住宅需要を押し上げ globalpropertyguide.com。しかし反発は地域でまちまち――2025年第1Qの新築販売は前年比約17%減、クラクフやウッチなどはさらに25%超減で在庫が積み上がる状況 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。JLLは都市間ミスマッチを指摘――クラクフでは現状の販売ペースで在庫一掃に2年以上かかると globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。ワルシャワやトリシティエリアはより健全な需給 globalpropertyguide.com。専門家は、2025年は賃金上昇と金利低下の下で需要が安定し、開発業者の破綻や大きな調整は回避されると見ています globalpropertyguide.com。注目点は外国人購入者の増加――一部新築物件(ワルシャワ郊外など)では販売の30%以上が外国人 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。その多くはウクライナ人(定住意向)、中東欧やアジアも含み、ポーランドの安定やまだ手頃な価格が魅力 globalpropertyguide.com globalpropertyguide.com。この流入が需要の弾み車となっています。今後は、ポーランド経済の強さ(GDP成長予想3~4%)と大都市の住宅不足も相まって価格・家賃上昇が継続。他方で政府の政策変更(突発的な補助・規制等)はボラティリティ要因 globalpropertyguide.comとなりますが、中長期ではポジティブで、国際投資家から欧州でも有望市場と見なされています。
商業用不動産の動向:部門別シフトと慎重な楽観論
商業用不動産部門は、ヨーロッパ全域で厳しい調整局面を経ており、今後は徐々に回復に向かう見通しです。2022~23年の金利ショックによって資産価値の再評価(利回り上昇・評価額下落)が起こり、2023年は投資額が大幅に減少しました。2024年には市場心理が改善し始め、2025年は部門ごとに安定化と選別的な成長が見込まれます。全体を貫くテーマは「質への逃避」で、テナント・投資家の双方が高品質で将来性のある資産(最新設備のオフィスや好立地物流施設など)を選好し、劣後物件の需要は軟弱です。一方、パンデミックで打撃を受けた部門(小売業・ホテルなど)がようやく回復基調に入り、「オルタナティブ」部門(データセンター・ライフサイエンス・学生寮など)の存在感も高まっています。以下、主要部門ごと(オフィス、小売、物流・産業、ホスピタリティ、新興ニッチ分野)の動向を概説します。
オフィス:ヨーロッパのオフィス市場は、パンデミックによる混乱とリモートワーク革命の後、慎重ながらも回復基調にあります。オフィスの賃貸需要は回復しつつありますが、多くの都市では依然として2020年以前の水準を下回っています。オフィス雇用の増加や出社率の安定によって支えられ、2025年には賃貸取引のボリュームがさらに増加すると見込まれています。CBREは、2025年の賃貸活動が5〜10%増加し、歴史的な平均水準に近づくと予測しています mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。実際、2021〜2023年に大手企業が自社スペースの必要性を見直した後、「ハイブリッドワーク」の姿がより明確となり、企業は再び長期的な入居判断を行っています。出社率も向上しており、60%以上の企業が平均出社率40〜80%(昨年比10ポイント以上増)を報告、今後さらに高めることを期待している企業も多く、それがスペース需要を支えています mediaassets.cbre.com。その結果、空室率は2025年には一部都市でピークアウトし、減少に転じる兆しも見られます(過去数年に増加した後)mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。ただし、空室の圧縮が見られるのは主に最上位の建物に限られ、全体の空室率は一部市場(例:パリの一部、ドイツの二次都市)では依然として高水準です。
鍵となるトレンドは、品質の二極化です。入居企業は統合やポートフォリオの縮小を進める一方、高品質・省エネ・好立地のオフィス(「グレードA」スペース)を優先しています。この「クオリティ重視」傾向により、新築や最近改修された設備の整ったビルへの需要が強く、賃料の上昇さえ見られます。一方、老朽化オフィスは停滞。二次級オフィスの所有者は改修や用途転換の圧力を受けます。ある業界CEOが指摘するように、高品質な職場環境の提供ニーズが、プライムと低品質資産間のイールド格差を拡大させています mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。2025年には都心部の供給制約があるグレードAオフィス賃料が(高品質スペースの低空室によって)緩やかに上昇する可能性がある一方、二次ストックは横ばいまたは下落が見込まれます。新規オフィス開発も(高い建設費や資金調達困難から)減速しており、これは逆説的に空室問題を和らげています—新規供給が減れば、既存空室を徐々に消化できるためです。
オフィスに対する投資家心理も、依然慎重ながらも2023年の底からは改善しています。オフィスは伝統的に不動産投資の最大シェアを占めてきましたが、昨年は多くの機関投資家が慎重姿勢だった中、修正価格でのコアプラスやバリューアッド案件への関心が高まっています mediaassets.cbre.com。オフィス向け融資も回復しつつあり、良質な資産へのファイナンス意欲が高まっています(ただしLTVは低め)mediaassets.cbre.com。特にプライムオフィスでは、金利とともに評価額も2025年に安定し始め、売手買手の価格合意が進む見込みです。2025年はオフィス取引量がやや増加し、需要の高い物件や用途転換に適した資産(例:老朽ビルのグリーン&モダン化)に集中すると予想されます。ただし、オフィス分野の回復は緩やかかつ不均一です。逆風としてポートフォリオ縮小(多くの企業がハイブリッド化により10〜20%のスペース削減を継続)、経済不透明感で拡張に慎重な動きもあります mediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。加えて、オブソレッセンス(陳腐化)リスクも大きく、エネルギー基準やテナント要求に応えられないビルは、今後入居者も投資家も集めにくくなるでしょう(ESGの影響については後述)。まとめると、2025年は賃貸・投資のゆるやかな回復=潮目の変化が予測されますが、今後の成長サイクルは品質格差が主軸となり、従来より「一人当たり必要スペース」が減る可能性もあります。
リテール:長期低迷の後、ヨーロッパの小売不動産セクターがようやく息を吹き返しつつあります。実店舗型小売はEコマース競争やパンデミックによるロックダウン直撃で、2020〜2022年に空室増・賃料減を余儀なくされました。しかし、消費動向の正常化と投資家の新環境適応が進み、自信が戻りつつあります。2024年には来店数・売上が改善し、とくにラグジュアリーハイストリートやリテールパークが好調です。2025年には、リテール投資の復活が期待されています。かつて敬遠されていた大型ショッピングセンターも再び脚光を浴びています。CBREによれば、2025年は主要ショッピングセンターで大型取引が戻ると予想されており、現在の価格水準は他物件ジャンルに比べて魅力的とのことです mediaassets.cbre.com。米国では既に大型モールの取引も見られ、その流れが欧州にも波及しています mediaassets.cbre.com。プライムリテールのイールドは2022〜23年に大きく拡大(=価値下落)しましたが、これにより買手側はトップクオリティのモールやハイストリート物件を魅力的な利回りスプレッドで取得可能です。インフレ鈍化や消費安定化(EU小売売上も徐々に改善)から、リテール賃料低迷は最悪期を脱したとみられます。
実際、多くの市場でリテール賃料と稼働率が改善しています。プライムショッピングセンターの空室率はピークから低下し、ディスカウンターやアウトレット、体験型フォーマットがとくに出店拡大中です。観光都市のハイストリート(ロンドン・パリ・マドリード・ミラノ)は観光回復も伴い反発し、これら一部都市のプライムリテール賃料は数年ぶりの上昇を記録しています。一方、二次立地では依然課題が残り、低品質ショッピングセンターは用途転換(複合型や物流施設など)の必要性も。リテール回復を支える要素として、新規供給がほぼ止まっていることも特筆されます(開発業者が数年前からモール新設を中止)。その結果、既存の高品質資産は新たな競合の脅威が僅少です。
投資家は特にバリューアッドやオポチュニスティック系ファンドがディスカウント価格で小売資産を積極取得しており、サイクル回復への賭けとなっています。今や「コア」な投資家(例:年金や機関投資家)も優良物件には再参入。2025年はリテール投資額が2桁増(前年比)も視野ですが、まだ水準的には低いままです。プライムリテールのイールドは需要の復活で若干縮小する可能性があります mediaassets.cbre.com。ただし注意点として、小売パフォーマンスは消費者心理に強く影響されますが、欧州ではいまだ脆弱な状態です。2022〜23年の高インフレで実質所得が減りましたが、家計の実質所得は再び増加傾向となっているものの、消費者は慎重・節約志向が強まっています cbre.fr。フランスなど一部市場では消費マインドが低迷し、2025年も大幅反発は見込めません cbre.fr。このため、小売不動産の回復は、食品スーパー核型、オムニチャネル連携型パーク、ネットで代替できない体験型モールなど新たな消費傾向と親和性の高いフォーマットが牽引するとみられます。総じて、リテールの見通しは数年来で最も明るい局面となっており、2024年が底、2025年には賃料の安定~増加と優良物件での投資取引増加が期待されます mediaassets.cbre.com。
ロジスティクス & インダストリアル: ロジスティクス不動産分野(倉庫、配送センター、工業団地)は、ここ数年の主役となっており、eコマースやサプライチェーンの再編によって牽引されてきました。しかし、2023年は経済成長の鈍化や需要企業の拡大停止により、同分野も若干の落ち着きを見せました。2025年に向けては、ロジスティクスの基礎体力は依然として強固であり、分野の拡大再開が予想されています。最新鋭倉庫へのリース需要は高いものの、2024年には一時的に成約量が減少(実際、パンデミック後の正常化が進み、2024年の成約量は2019年以下となった)mediaassets.cbre.com。この停滞は短命に終わる見通しであり、CBREは2025年下半期を中心にロジスティクスリースが再び拡大すると予測、企業は延期していた拡大計画を再始動する見込みですmediaassets.cbre.com。追い風となる要因は多数あり、ニアショアリングおよびリショアリングの流れによってヨーロッパ域内の製造・保管ニーズが高まり(ウクライナ戦争や世界の貿易構造変化により企業がサプライラインを短縮)、mediaassets.cbre.com、在庫運用も“ジャストインケース”型のバッファー在庫拡充に変化し、倉庫需要を支えています。
ロジスティクス分野の空室率は、多くの市場で歴史的な低水準(5%未満)でしたが、2023年は新規供給の波によりやや上昇しました。しかし、2025年には空室率が安定し、低水準を維持する見通しです。これは新設倉庫が吸収されていくためですmediaassets.cbre.com。実際、英国やドイツなど一部諸国では資金調達コスト上昇により投機的な新規建設を抑制しているため、2024年以降の供給パイプラインは細くなっています。家賃動向も強固で、主要物流施設の賃料は2025年もインフレに追随して推移、実質的に安定が見込まれますmediaassets.cbre.com。欧州の主要ロジスティクス拠点の多くは1桁台半ばの賃料上昇予測となっており、好立地への根強い需要を示していますmediaassets.cbre.com。2022年の2桁台上昇ほどではないものの、賃料成長は引き続きプラスが予想されます。
投資家はロジスティクスに対して非常に強気の姿勢を維持しています。このアセットクラスは上場不動産の価値回復の先陣を切り、2024年末には欧州の物流REITがネットアセットバリュー近辺で取引されるようになりました(以前は大幅なディスカウント)mediaassets.cbre.com。これは信頼の証です。投資家の食欲は旺盛で、機関投資家、ソブリン系、プライベートエクイティといった多様な買い手がロジスティクス配分を増やそうとしていますmediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。一方で、保有者がこの貴重な資産を手放さないため購入機会は希少です。主要ロジスティクス分野のキャップレートは2022〜23年に上昇(価値はやや下落)しましたが、2024年にはほぼ安定化し、今後の利回り縮小は金利低下次第です。2025年はロジスティクス投資取引量も持ち直しが見込まれ、特に金利動向に見通しが立てば、膨大な資金がこの分野に流入することが予想されます。注目すべきトレンドは、貿易政策とニアショアリングで、欧州の工業用途のテナントは米国の動向(例:2025年の新たな関税導入可能性)や地政学情勢を注視していますmediaassets.cbre.com。これは、企業がどこに製造や保管拠点を拡大するか(例: 米系企業が関税対応でEUに投資)へ影響を与え得ます。さらに陳腐化も重要課題で、高天井やESG要素のない古い倉庫は苦戦し、最新鋭の“グリーン”施設はプレミアム賃料で取引されています。要約すると、ロジスティクス不動産は成長分野であり、2025年も需要増加と投資家需要の強さがメガトレンド(eコマース、サプライチェーン強靭化、ニアショアリングなど)に支えられ、拡大が継続する見込みです。
ホテル & ホスピタリティ: ホテル不動産分野は、ヨーロッパ全域の旅行需要急増によりパンデミックから力強く回復しました。2024年までに、多くの観光市場(南欧やパリ・ロンドン等)でホテル収益が過去最高を記録、投資家心理も好転しました。2025年もホスピタリティ不動産にとって好調基調が継続する見通しです。欧州の国際観光は引き続き成長が見込まれ、投資家によるホテル分野への配分も拡大傾向ですmediaassets.cbre.com。Savillsなどのブローカーによると、ホテルはインフレ期に宿泊料金を機動的に引き上げられるため好リターンを期待できる資産として位置付けられています。CBREによれば、欧州ホテル投資市場は「今後も好調基調を維持、分野への配分増加と高い収益見通しで支えられる」とのことですmediaassets.cbre.com。バリューアッド投資家(取得後のリブランドやリノベ目的で購入)の活躍が目立つ一方で、2025年はコア資本も再流入する見通しmediaassets.cbre.comです。
2025年にはホテル取引量の増加(一部ポートフォリオ取引含む)が予想され、プライベートエクイティや機関投資家が旅行ブームの波に乗ろうとしています。スペイン、ギリシャ、イタリアといった観光依存型市場では特に注目が集まるほか、主要ビジネスハブでは平日稼働の回復も顕著です。また、エクステンデッドステイやリゾート系の代替ホスピタリティにも関心が向いています。全体的に、ホスピタリティは2025~2028年も成長ストーリーを描いており、旅行需要の構造的増加と、伝統的プロパティより高い利回りを背景に分散投資先として注目されます。最大のリスクは世界的な景気後退による旅行激減やエネルギーコスト再高騰(旅行費用影響)ですが、それがなければ好調基調が続くと見られます。
代替セクターと新興ニッチ: 投資家は伝統的な「ビッグ3」(オフィス・商業・工業)にとどまらず、オペレーショナル不動産やニッチな専門分野にも目を向け始めています。2025年版ULI/PwCのエマージング・トレンド調査では、データセンター、新エネルギーインフラ、学生寮など住居系特殊分野が有望な投資・開発分野のトップとされていますeurope.uli.org。これらは長期成長の原動力を活かしています:
- データセンター: デジタルインフラ(クラウド、AI、5Gなど)需要の急増で、データセンターは最も成長著しい不動産分野となっています。欧州全域でキャパシティ拡大が進んでいるものの、電力供給の制約もあります。投資家は参入を競い合いますが、取引の機会は少なく、CBREによれば競争は激化し多くの案件がオフマーケットで成立、「パワードシェル」(倉庫買収→データセンター転用)の段階でも争奪戦が起きていますmediaassets.cbre.com mediaassets.cbre.com。強い追い風と低金利を背景に、2025~2028年も開発・投資活動は非常に活発と見込まれます。主要都市(フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、ダブリン、パリ)が中心ですが、二次市場の台頭も。
- 新エネルギーインフラ: 欧州が脱炭素化を追求する中、エネルギー転換に関わる不動産(バッテリー工場地、太陽光・風力発電用地、EV充電ハブ、水素生産拠点など)も投資家の注目を集めています。PwC調査でも新エネルギーインフラが2025年有望分野の上位に位置付けられていますeurope.uli.org。これは工業系不動産と重なる面もありますが、多くはエネルギー企業との提携や長期リースが特徴です。まだ伝統的分野に比べるとニッチですが、要注目です。
- 住宅系オルタナティブ: 学生寮、高齢者住宅、コリビングなども成長路線です。欧州の学生寮(PBSA)は大学進学者増と近代的学生住宅の慢性的不足を背景に急成長中。Z世代は充実した設備を求め、投資家側も旺盛な需要と景気逆風耐性で魅力を感じていますmediaassets.cbre.com。2025年注目分野の一つですeurope.uli.org。高齢者住宅やヘルスケア不動産にも人口高齢化の恩恵が及び、機関投資家が流入しています。これらは景気感応度が低く分散効果もあります。
- マルチファミリー/BTR: 一般的な“住宅”はオルタナティブではありませんが、機関投資家が所有するビルド・トゥ・レント(BTR)型集合住宅分野は欧州(特に英・独・蘭・西)で拡大継続中です。保険会社やファンドによる賃貸住宅への配分増加は根強いテナント需要と安定収入が理由で、2025年もこの傾向が続く見通しです。課題もあり(家賃規制例:オランダなど)、ESG要件の観点でも新規BTR案件が有利です。マルチファミリー分野へのクロスボーダー投資は米・加投資家による欧州住宅ポートフォリオ購入で今後も活発でしょう。
まとめると、2025年の欧州商業不動産市場は分化が特徴であり、ロジスティクスや住宅、オルタナティブ分野が回復牽引、商業・ホスピタリティはリバウンド段階、オフィスは構造転換への対応中となります。資産の質や立地、ESG認証が勝敗を決定するポイントとしてこれまで以上に重要になっています。
国別コマーシャル市場のハイライト
注目すべき主要国市場(ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、オランダ、ポーランド)について、それぞれの商業不動産セクターの顕著なトレンドを紹介します:
- ドイツ: ヨーロッパ最大のコマーシャル市場、再調整中。 ドイツは2023年に大幅な減速を経験し、投資額が減少し、一部でストレスが顕在化(特にオフィスおよび住宅ポートフォリオを過剰にレバレッジした家主の間で)しています。2024~25年、ドイツのオフィス市場は二極化した見通しです。ベルリン、ミュンヘン、フランクフルトなどの都市では、依然として一等地オフィスへの需要が健全で(テックや金融系テナントによる慎重な拡張)、プライムオフィスの賃料は堅調で、一部サブマーケットでは上昇しています。しかし、より中心部から外れたエリアや古い物件などのセカンダリーオフィスは空室率が高まっています。全国平均のオフィス空室率は約6~7%に上昇しましたが、新規プロジェクトが少ないため、現在は横ばいになりつつあります。経済停滞や高い調達コストの影響から、投資家のセンチメントは慎重ですが、利回りが安定化しつつあることから一部は市場に戻り始めています。特に、ドイツのオープンエンド不動産ファンド(同国市場の主力)は2023年に評価額を引き下げましたが、2025年には新たな価格水準で選別的に買い始める可能性があります。ドイツの物流は依然非常に強く、主要ハブ(ルール、ベルリン、フランクフルト周辺)で空室率は3%未満、賃料も上昇を続けています。世界的な投資家の多くが、激しい競争をものともせずドイツ物流をターゲットにしています。リテールはまちまちで、裕福な南部都市のハイストリートリテールは回復傾向にありますが、小規模都市の弱いリテールは依然として苦戦中です。全体として、2025年のドイツ商業不動産市場は徐々に安定化しており、「ゆっくりで波のある回復」という表現が当てはまります pwc.com。顕在化しつつある問題の1つがリファイナンスで、ドイツのレンダーは慎重になっているため、2025~2026年には貸付満期を迎える資産(特にオフィス)の売却増が見込まれ、調整価格で買い手にとっての好機となる可能性があります。
- フランス: パリが中心に。 フランスの商業市場はパリ圏がリードしており、現在調整局面にあります。パリのオフィスは2024年、経済の鈍化と企業の慎重姿勢から需要減少 cbre.fr。特にラ・デファンス地区では一部テナントの縮小により空室率が高まっています。2025年にはオフィスの明確な回復は年後半以降に期待される状況です cbre.fr。しかし、パリ中心業務地区(CBD)のプライムオフィスは非常に価値が高く供給も少ないままです。ESG要件(例えば2025年以降、省エネ性能の低いオフィスの賃貸禁止など)により、オーナーは不適合ビルのリニューアルや売却を余儀なくされることになり、これが大きなテーマとなります。フランスの物流は2021~22年が絶好調でしたが、2023年に冷え込み、現在オキュパイヤーは様子見姿勢、新規供給で空室率が上昇傾向 cbre.fr。「利用可能な在庫の継続的な増加」が一部市場で見られ、2025年は賃料成長よりも吸収の年となるでしょう cbre.fr。長期的には(eコマース、1日配送など)の要因が特にパリやリヨン周辺で引き続き物流を支えています。フランスのリテール-パリのハイストリートショップは観光客回帰(米国人が有利なユーロを活用など)で恩恵を受け、ラグジュアリーリテーラーも拡大中です。ただし一般的には消費者信頼感が弱いためリテール売上は低迷ぎみ cbre.fr。したがって、賃料は2025年も概ね横ばい、例外はプライムロケーションのみでしょう。全体投資は2024年に低水準となり、2025年には安定化しわずかな増加が期待されます cbre.fr。取得を控えていた大手機関投資家(保険など)も、価格次第で再開の可能性が出てきます。ESGは非常に大きな焦点で、フランスは気候計画の新報告(CSRD)をいち早く導入する国のひとつであり、これがフランス資産への投資判断を大きく左右します cbre.com cbre.com。
- スペイン: 幅広い回復が光る市場。 スペインの商業用不動産はその力強い経済と高利回りを求める投資家の食指で支えられています。マドリードとバルセロナは2025年の投資見通しでヨーロッパ上位にランクされており(マドリードはULI/PwCでヨーロッパ2位にも選出) europe.uli.org。オフィス:マドリードのオフィス市場は堅調なリースが続き、空室率は約9〜10%で新たな大規模供給もないため低下傾向です。マドリードおよびバルセロナの一等地賃料は小幅上昇しており、グレードA空間の限られた供給を考えればさらに上昇する可能性もあります。物流:スペインの物流セクターは好調で、マドリードやカタルーニャ周辺での需要が高く、国際グループも高利回りに魅せられスペイン物流プラットフォームを買収中です。スペインの消費・輸出の増加により倉庫需要は継続すると予測され、デベロッパーの活動も盛んですが、大都市近郊の土地は有限であることが空室率の低さを後押ししています。リテール:スペインの小売業は観光と個人消費の活況で力強く回復、来店客数も回復し二次的ショッピングセンターでも空室が減少。米欧プライベートエクイティもさらなる成長を見込んでバリューアッド型でスペインリテールを狙っています。ホテル:おそらく最大の目玉はスペインのホテルで、多くのリゾート地や都市で稼働率・宿泊単価が過去最高を記録し、ファンドへの売却も多数発生(家族経営ホテルが好条件で売却)。観光の拡大が見込まれる中、2025年もホテル不動産は最も熱いセクターのひとつでしょう。総じてスペインは成長市場とみなされ、クロスボーダー資本を引き寄せ、オフィスからホテルまで商業セクター全体が拡大モードを維持していますが、グローバルな経済リスクへの注意も必要です。
- イタリア: 安定市場に選別的な好機。 イタリア経済は緩やかに成長中(約0.8~1.0%)で、不動産市場は通常、よりダイナミックな国々に遅れて動く傾向があります。ミラノは依然として目玉で、金融・ファッションの中心としてオフィスや複合投資の大半を引きつけています。ミラノのオフィス空室率は非常に低く(約4-5%)、テックや金融企業の競争によりグレードA物件の賃料は過去最高値です。ポルタ・ヌオーヴァやシティライフ地区などの新オフィスプロジェクトも順調に賃貸されており(多くは事前契約済み)。ローマのオフィス市場はより小規模かつ公共部門主導で、ミラノのような賃料上昇はありませんが比較的安定しています。イタリア物流も拡大中で、北部(ロンバルディア、ヴェネトやローマ・ナポリルート)ではイタリアのeコマース拡大に伴い倉庫需要が急増。プロロジスやロジコールなどの投資家の後押しを受け、現代的な物流ストックが拡充しています。一方、インフラや官僚主義の問題もあり利回りはやや高めで、これは利回り重視の投資家を惹きつけます。リテール:イタリアは今も実店舗型リテール文化が根強く、多くの二次立地では空室がありますが、ミラノ(ヴィア・モンテナポレオーネ)やローマの一等地ラグジュアリーストリートは非常に好調で、世界有数のリテーラーが観光客需要に支えられ記録的な賃料を支払っています。二次的なショッピングセンターも食料品スーパーが核テナントであれば安定。ホテル:特にラグジュアリーやトスカーナ、アマルフィなどのリゾートホテルは国際的(富裕層、ラグジュアリーブランドなど)から高い需要を集めており、2025年もトロフィー型ホテル取引が増える見込みです。イタリアの主な課題は慎重な融資環境や政治リスクですが、現政権が比較的開発促進路線なこともあり、一部規制緩和(許可手続き加速など)が期待されます。不動産市場の見通しは安定的ながら成長局面も存在(ミラノオフィス、物流、ホテル)で、2025年は海外投資家の存在感増と中程度の投資額拡大が期待されます(イタリアはコア国に比べて利回りが高い)。
- オランダ: 小国ながら投資家の熱視線。 オランダは、その透明性と堅調なファンダメンタルズにより世界中の投資家から高い評価を受けています。アムステルダムのオフィス市場は空室率が低く(約7%)、テック・金融企業が一等地スペースを求め続けていますが、アムステルダム市は一部地域でオフィス新設を禁止し住宅促進に舵を切っています。このため、供給は抑制され長期的なオフィス成長には天井感も。ただし2025年には、アムステルダムの一等地オフィス賃料が希少価値により小幅上昇する可能性があります。ロッテルダムやアイントホーフェンのような地方都市は空室率が高く、賃料も安定。物流:オランダは物流大国(ロッテルダム港、スキポール空港)で、これらハブ周辺倉庫需要は非常に高く、2020~22年に多くの新規ストックが建設されたものの、着実に吸収されています。一方、土地取得や許認可(環境「窒素」規制等)が難化しており供給は制約されています。物流賃料は今後も堅調かインフレ連動で上昇の見通しで、投資家も積極的にオランダ物流資産を取得中―特にアジア・北米投資家から高い人気です。リテール:オランダの小売売上は堅調で、ショッピングセンターもオムニチャネル型に対応済み。アムステルダムのハイストリートは観光に支えられて(高級帯の賃料成長も)、地元SCは消費堅調で安定。オランダの最大の話題は住宅セクター規制で、アフォーダブルレンタクト法により多くの物件が家賃規制対象に拡大、バイ・トゥ・レットの大家が売却に動いています。この資本の再配分が小売や他分野にも恩恵となり得ます。投資見通し:オランダは2025年も活発な投資フローが続き、国際資本が流動性に惹かれて参入。ユーロ安・ドル高で米国投資家にとって特に割安感があります cbre.com。全セクター(オフィス、産業、住宅、リテール)で注目が集まりますが、特に物流と(規制はありつつも長期住宅ストーリーが強い)住宅が牽引するとみられます。ESGもオランダ市場では重要テーマで、同国は厳しいサステナビリティ目標を掲げ、建築設計やリノベーションにも影響を及ぼしています。
- ポーランド: 中東欧の成長と利回り。 ポーランドはCE最大かつ同地域で最も制度的に成熟した市場とみなされています。ワルシャワのオフィス市場は大規模な新規供給と多国籍企業の縮小を受けて空室率が~11~12%に達しましたが、2024年はIT・ビジネスサービスなど企業拡大により記録的なリース実績となりました。2025年には、(2023年に開発ストップで)新規供給がほぼないため、ワルシャワ空室率は低下し、プライム賃料も上昇の可能性。地方都市(クラクフ、ヴロツワフ)もBPOやテック企業による活発なオフィスマーケットがあり、賃料も低くコスト志向テナントに魅力的です。物流・産業:ポーランドは国内大市場とドイツ・東欧への拠点として物流の爆発的成長が続き、特にワルシャワ、ウッチ、上シレジア周辺で大規模な倉庫が建設。今や年間取扱量でドイツに比肩する規模に。2023年はわずかな沈静化があったものの、2025年にはアジアから欧州への近接生産(ニアショアリング)による需要再拡大が見込まれます。土地・人件費が西欧より低いため、ポーランド物流ブームは続き、投資家は非常に積極的です ― プライム物流の利回りは約5〜6%(ドイツの3.5〜4%に比べ高い)で外国人投資家を呼び込みます。リテール:消費支出増(賃金上昇)の恩恵でポーランド小売業界も回復。ワルシャワ含む大都市のモダンな商業施設は高稼働、高い来客数を報告。インフレの影響で小売売上が変動する一方、生活必需品型のリテールパークは好調。国際的小売チェーンも拡大し自信の現れ。投資フロー:ポーランドはしばしば中東欧で最も魅力的な市場と評され lexology.com、2025年はさらなる資本流入が見込まれます。既に多くの米欧ファンドがポーランドで物流・賃貸住宅のプラットフォームを構築。安定・成長性によりクロスボーダー投資も進んでいますが、為替リスク(ズウォティ変動)や政変には注意が必要。2023年10月選挙で親EUの新政権が成立し、投資家マインドもさらに改善が見込まれます。総じて2025〜2028年のポーランド商業不動産市場は力強い成長が見込まれ、EUコア国では見つけにくい利回りと成長性を兼ね備えていますが、やや高めのリスクも伴います。今後はオフィス(西欧高額都市からの分散)、物流(パンEU型ポートフォリオ)、PRS住宅(機関投資型賃貸住宅)のクロスボーダー案件の増加が期待されます。
投資フローと資本市場
厳しかった2023年を経て、欧州不動産資本市場は2025年には投資活動の段階的回復に向けて準備を進めています。昨年は売り手が価格下落を渋り、買い手は高金利を背景とした高利回りを要求する
「ビッド・アスクギャップ」が拡がり、取引量が大幅に減少しました。現在、金利が安定し、不動産価値が下方修正された(セグメントによっては10~30%の価格修正)ことで、買い手と売り手の利害が接近しています。実際、このビッド・アスクギャップは2025年にはさらに縮小し、より多くのディールが成立しやすくなると予想されます cbre.com cbre.com。主な原動力のひとつは単純に取引意欲の高まりであり、より多くの案件が市場に出てくる(借入満期やファンド解約に追われるオーナーが資産売却に踏み切る等)とともに、調達環境の改善で買い手が動きやすくなっています cbre.com cbre.com。高レバレッジの所有者や資金流出に直面するオープンエンドファンドが売り手の中心となり、一方で長期保有志向の投資家は様子見する構図 cbre.com cbre.com。売却資産の増加と若干の調達コスト低下が相まって、2025年の投資額増加が期待されます。市場アナリストによると、欧州商業不動産投資額は2025年には(2024年対比で)10~15%の増加、その後2026年にはさらに加速するとの予測もあります。
とはいえ、投資回復は徐々に、かつ不均一に進行すると見込まれます。金利がパンデミック前の低水準を上回る状態が続く可能性が高く、価格の大幅な再上昇には限界があります。買い手は引き続き価格に対して慎重な姿勢を保ち、価値の成長は緩やかとなるでしょう cbre.com cbre.com。人気セクター(例:プライム物流、住宅、一等オフィス)のプライム資産は、2025年末までに競争が激化することで再び利回りの圧縮が見られるかもしれません cbre.com cbre.com。一方、二次的な資産や課題のある物件(短期賃貸、設備投資が必要なものなど)は引き続き割引価格で取引される可能性もあります。とはいえ、欧州不動産の収益見通しは全体として改善傾向にあります。国債利回りがピークを過ぎ、不動産利回りが引き上げられることで、両者のスプレッドは再び妥当な水準に。CBREは、正のレバレッジが再び達成可能と指摘しており、投資家は一部の場合で物件利回りを下回る調達コストで資金調達が可能となりつつあります cbre.com。この債務と株式のアービトラージの本質的な再開が、市場へ再び資本を呼び込む助けとなります。
最も励みになるトレンドの一つは、2025年に予想される国際資本の復帰です。2022〜2023年は、為替の変動や不透明感により米国・アジアの多くの投資家が欧州投資を控えていましたが、状況は好転しつつあります。ユーロがドルに対して弱含んでおり、米ドル建てで欧州資産が割安になり、欧州域内の調達コストも2022年末より低下しています cbre.com。このため、海外投資家が欧州への資産配分を再開することが期待されています。特に北米や中東の大手投資家の中には、欧州不動産が相対的な割安感を持つと見ている向きも(米国のオフィス市場自体にも課題があるため)。「サイドラインの資本」もかなり潤沢で、世界中のプライベートエクイティ系不動産ファンドに多額の未投資資金があり、その多くが欧州のオポチュニスティックまたはバリューアド型投資に向けられています cbre.com。彼らは価値が再上昇する前の投資機会を逃したくないため、多くは2025年にサイクルの底値で資産取得へ動くでしょう。期待されるクロスボーダー投資パターンとしては、北米の欧州物流・住宅ポートフォリオへの投資の増加(既に始まっているトレンド)、中東ソブリン・ウェルス・ファンドによるロンドンやパリのランドマーク資産(オフィスタワー、ホテル等)への継続的関心、また域内の流れ(独仏ファンドが利回りを求めてスペインや中東欧へ投資)などが予想されます。
JLLのデータによると、2025年初頭にはEMEA不動産取引量が四半期比で40%超増加しており、センチメントが改善しています jll.com。この軌道が続けば、2025年が新しい上昇サイクルの始まりになる可能性も。Savills Researchも同様に、欧州の投資額は2025年に前年比約13%増、2026年にはさらに25%増と回復の勢いに乗ると予測しています(数字はレポートによって異なります)。資本のローテーションも注目されるポイントで、低迷期には現地市場に詳しい国内投資家が買いの主役でしたが、市場回復とともにグローバル投資家が購入に占める比率を高め、2020年以前のクロスボーダー投資の高水準が復活しそうです。
また、資金調達環境の変化も見逃せません。欧州の銀行はオフィスや開発案件への不動産融資により慎重になっており、その隙間をオルタナティブレンダー(プライベートエクイティのデットファンドや保険会社など)が埋めつつあります。2025年以降は、非銀行系レンダーが不動産ファイナンスでシェアを伸ばすと予想されます pgim.com。彼らはより柔軟な条件で融資提供できますが、金利がやや高いことも。特に2025〜2026年満期のリファイナンス需要が重要テーマとなります。ピーク時低利回りで取得した資産は、現在の高金利水準でのリファイナンスには追加の資本が必要となる場合も。ジョイントベンチャー、再資本化、売却といったソリューションが増加するかもしれませんが、全体のシステミックリスクは抑えられており、欧州の銀行には前回危機時ほど不動産エクスポージャーがなく、引当も慎重です。
投資家の地理的嗜好については、2025年の調査でロンドン、マドリード、パリが欧州のトップ都市ターゲットとなっています europe.uli.org。ロンドンは流動性・価格調整(ブレグジットと利回り拡大により割安感)、マドリードは成長と割安、パリは長期安定性とスケール感が魅力です。他にもベルリン、ミラノ、オランダの主要都市なども高評価。さらに、優れたファンダメンタルズを持つセカンダリー都市(ミュンヘン、ダブリン、リスボン、ワルシャワ等)への関心も高まっています。
投資家のセクター嗜好については既に述べた通り(物流、住宅、オルタナティブが優勢、オフィスは選択的、リテールは慎重復活)。多くの投資家が今やリスクプロファイルごとに戦略を分化させており、「コア」ファンドは主要都市のプライム資産(価格下落を狙う)、一方オポチュニスティック系はディストレスや再開発案件(例:安値で古いオフィスを取得して住宅やライフサイエンスのラボに転換)が標的です。「リパーパシング」(用途変更)も大きなテーマで、特にオフィスやリテールなど老朽物件を新用途に転換する資本投入が増えそうです。これは投資戦略に加え、当該セグメントの過剰供給対策にもなります。
結論として、2025年の欧州不動産キャピタルマーケットは、調達環境の改善、豊富な投資マネー、市場の大底感に後押しされて反発局面に入る見通しです。低成長やインフレ再加速などのリスクが回復を鈍らせる可能性はあります cbre.com が、全体的なセンチメントは慎重な楽観へとシフトしています。ある業界トップは、「インフレと金利の荒波を乗り越えた後、セクターは『着地点を視認しつつある』」と語っており、地政学リスクやESG要請の課題は残りますが europe.uli.org、全体のムードは“楽観的だが注意深い”—全ての案件が精査され、本当に良い機会のみが積極的に追求されます。
2025–2028年見通し:リスク・機会・変革トレンド
直近の先を見据えると、2025年から2028年はEU不動産市場にとって形成的な時期となります。関係者は今後数年間で業界の行方を左右する重要トレンドおよびリスクを注視しています。このセクションでは、将来を見据えた見通しとして潜在的リスク、成長機会領域、強まるサステナビリティ/ESGへの注目、進化するクロスボーダー投資動向などを論じます。
経済・市場リスク
主シナリオでは着実な改善が見込まれますが、不動産回復を狂わせたり遅延させたりしうる注目すべきリスクが存在します:
- 金利・インフレリスク: もしインフレが根強いか、新たなショック(例:原油急騰)が起これば、中央銀行は利下げを停止するか、再び利上げに動く可能性も。不動産市場は2025〜2026年の緩やかな金利低下を前提にしており、逆行はセンチメントや物件価値を一気に下押しします。また、金利が下がっても2010年代の超低金利ほどにはならず、新たな常態としてキャップレート・利回りはこれまでの低水準まで圧縮されず、物件価値の上昇余地も限定的となる見込み。ポジティブシナリオ: インフレが減速し、2026年に政策金利が歴史的平均(ECBで1〜2%程度)へ安定すれば、不動産には追い風となります。
- 経済成長・利用需要: 欧州の成長見通しは上向きつつあるものの控えめで、リセッション回避が重要ポイントです。中国景気減速による輸出悪化、米国リセッション、または域内の財政懸念再燃などのリスクも。成長が予想を下回れば(例えばユーロ圏成長が2026年まで1%未満で推移)、オフィスやリテール等の需要が鈍いままの恐れも。すでに
「成長鈍化が投資回復の足枷」 として指摘されています cbre.com。上振れ要因: 財政出動や想定上回るテクノロジー由来の成長で全物件需要が押し上げられる可能性。 - 地政学的不確実性: ウクライナ戦争は依然不確定要素—激化や長期化は投資家心理や特定市場(中東欧等)へ影響し得ます(ただしポーランドは事業移転で経済恩恵も)。さらに米中貿易摩擦(米国で政権交代があれば特に)も欧州の輸出産業・工業系不動産に波及しうる mediaassets.cbre.com。欧州内でも2024〜2025年の連続選挙を控え、不動産政策が変化する可能性(左派なら家賃規制、右派なら規制緩和だが不安定化も)。2028年までに欧州議会(2024年)、ドイツ(2025年)など主要選挙も続き、短期的な不確実性をもたらします。
- 金融システム・流動性: 長年の低コスト資金の反動で流動性が引き締まっています。大きなリスクは
「リファイナンスの壁」 で、2025〜2027年に大量のローン・債券が満期到来。信用環境が十分に改善しなければ、オフィスや北欧(スウェーデンの不動産会社等)でディストレス、投げ売り、デフォルトの恐れも(逆に言えばディストレス投資家には好機)。ただし、プライベートデットファンドの成長により、銀行が縮小してもオルタナティブ資金が穴埋めできる面も。 - 開発・建設コスト: 資材・労務費など建設コストは高止まり(2024年安定も、再上昇リスクあり)。コスト低下が進まなければ多くの開発案件は実現不能となり供給制約が続きます。短期的には既存物件オーナーに有利ですが、新規住宅・インフラ供給が必要な経済全体にはマイナス。厳格な環境規制(気候対応で建設制限等)もコスト増・遅延要因に(オランダの「窒素危機」による工事停止が典型例)。供給不足→住宅等の価格高騰やオフィス・工業用スペース不足が深刻化しうるリスクも。逆にコスト低下や技術革新で効率化すれば将来建設ブームで需給緩和も。
- 利用者行動の変化: リモートワークやEコマースといった長期的トレンドは、不動産用途を今後も変え得ます。ハイブリッドワークが2028年頃までに「出社率50%」などで定着すれば、一人当たりのオフィス需要が恒常的に減り、空室やオフィスの他用途転換が進む可能性大。同様にオンラインリテールはARショッピング普及や世代交代で一段の市場拡大も予想され、リテール需要に想定以上の構造変化が及ぶかもしれません。不動産関係者は常に用途転換やテナント誘致で機敏な対応が求められます。
まとめると、中期的にはマクロ経済・地政学リスクにやや下振れリスクが偏っています。市場のコンセンサスは「波乱はありつつも何とか乗り切る」シナリオですが、高インフレ・低成長あるいは突発的ショックが起きれば不動産回復の耐性が試されるでしょう。業界自体もこれらのリスクを自覚しており、「慎重楽観の下にも“至る所に但し書きあり”」と指摘されています europe.uli.org europe.uli.org。不動産リーダー達は「5つのD」— 債務、人口動態、脱炭素化、脱グローバル化、デジタル化 europe.uli.org europe.uli.org— つまり上記のリスクとドライバー—を注視しています。
成長機会と戦略的展望
リスクはあるものの、正しいポジションを取ることで大きな成長機会が存在します。これらの機会の一部は上記の課題から直接生まれています。例えば、老朽化物件のリファービッシュや再開発は今後有望なビジネスとなるでしょう。多くのオフィスビルがESG規制に対応するためのアップグレードを必要としており、アダプティブリユースやリトロフィットを専門とする企業には多くの仕事が舞い込むはずです(投資家は“ブラウン”ビルを“グリーン”に転換することでリターンを得られます)。2028年までの期間には、欧州全土で数千のオフィスや商業スペースが、アパート、研究室、学生寮、その他用途へと転換される可能性があります。これは単に一方のセグメントの供給過剰に対応するだけでなく、もう一方の供給不足(例:都心部の空きオフィスを必要な住宅へ転換など)も解消します。
もう一つの機会は、不動産におけるテクノロジー統合です。不動産業界は歴史的にテクノロジー導入が遅れていましたが、変化が進んでいます。PropTechの台頭やAI・IoT・データ分析の活用により、ビル運営・マーケティング・投資判断の最適化が加速。PwCの調査によると、85%以上の回答者が、今後5年間でAIが不動産の全分野に何らか、または大きな影響を与えると予想しています。pwc.com pwc.com。すでにAIは予測保守、テナントの解約予測、市場分析などに活用されています。pwc.com pwc.com。こうしたテクノロジーを導入することで効率や収益性が向上します(例:ホテルでのAIによる客室価格のダイナミックプライシング、家主が更新や移転しそうなテナントを特定など)。デジタル変革に投資する不動産会社は、大きな成果をあげる可能性が高いでしょう。欧州でもスマートビル・スマートシティの成長が見込まれ、EUのデジタル・グリーン戦略と連動することで、テック対応インフラ投資の好機が広がります。
人口動態や社会的変化も新たな機会を生み出します。高齢化社会の進展により、高齢者住宅や医療オフィス、介護施設などのニーズが高まり、2028年までに大きく拡大する分野です。都市化と若手専門職による活気ある都心での賃貸志向は、機関投資家が管理する賃貸専用住宅(ビルド・トゥ・レント)やコリビングの成長を支えています。また、言及したように学生寮も拡大しており、ドイツやイタリアのPBSA(専用学生寮)は供給が比較的少ないため、新規開発に投資が集まっています。ライフサイエンス不動産(研究施設、R&D拠点)も注目分野で、パンデミック後は医薬・バイオ系の重要性が増しました。米国ボストンやケンブリッジでラボスペースがブームとなったように、欧州でもケンブリッジ(英)、アムステルダム、ベルリンなどで拡大しています。今後は大学や病院近くのライフサイエンス・キャンパスへ特化型ファンドの資金がさらに流入するでしょう。
地政学的には、欧州は「フレンドショアリング」と産業再編により利益を得る構えです。グローバル企業がアジア依存を減らそうとするなか、欧州(特に東欧)はEVバッテリーや半導体(EUのチップ法支援)、ハイテク製造の誘致先となります。新工場や生産拠点には、労働者向け住宅、物流施設、オフィスなど不動産需要が派生します。ポーランドではバッテリー工場への大規模投資が進み、地元不動産市場を押し上げています。EV化で自動車工場がドイツ・フランス・スペインで建設され、その波及効果も見込まれます。不動産投資家はこうしたプロジェクト関連インフラ(倉庫、研修施設、新規労働者向け商業施設など)を手掛けるチャンスを見出すでしょう。
クロスボーダー資本流入自体も好機を生みます。予想通りアジア(シンガポール・韓国など)や北米の資本が欧州不動産に再流入すれば、現地プレイヤーは新規参入者との提携で恩恵を受けます。今後は、海外資本と現地デベロッパー(ノウハウを持つ)の共同事業が増える可能性があります(例:ポーランドでの住宅、スペインでの物流施設)。クロスボーダー投資はターゲット市場で利回り圧縮(価格上昇)を生む傾向があるため、例えば米国投資家がドイツ住宅市場を安全とみなして大量流入すれば、先行参入者に恩恵が及びます。
最後に、政府主導の施策も成長分野を切り開きます。EUや各国政府はグリーンエネルギーやインフラ(鉄道・EV充電ネットワーク・省エネ改修補助金など)への投資を活発化。これに関連する不動産(鉄道駅近開発、EV充電施設関連用地など)は従来型ではないものの、新たな投資アセットカテゴリーとなっています。
要するに、従来型のオフィスや商業施設の“バイ・アンド・ホールド”はもはや確かな選択肢ではなくなりましたが、2025~2028年にかけては、資産の用途転換、PropTech導入、人口動態による新セグメントの開拓、欧州のデジタル・グリーン移行に沿った事業展開で変革的な成長機会が広がります。
サステナビリティとESG動向
欧州不動産業界で最も大きな変化のひとつは、サステナビリティとESG(環境・社会・ガバナンス)の観点が産業全体の隅々まで組み込まれていることです。このトレンドは2028年に向けてさらに加速し、不動産の資産価値・テナント需要・投資戦略に根本的な影響を及ぼします。実際、業界調査によると、ESG規制順守が不動産ビジネスにおける短期・長期最大の課題と認識されています。europe.uli.org europe.uli.org
2024年以降、いくつかの規制強化が重なり合って進みます:
- EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)により、大企業は2024年度から詳細なESG指標の開示を義務付けられます(報告開始は2025年)cbre.com cbre.com。不動産会社だけでなくテナント側も(多くの企業が借りているスペースの環境負荷を開示する必要あり)。欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)も導入され、開示要件が一層厳格化されます。cbre.com。不動産オーナーは明確な気候変動対応計画と実績を示すことが求められます。
- 提案されている企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CS3D)は、単なる開示だけでなく、気候目標達成のための具体的実行計画も義務付けます。cbre.com cbre.com。不動産投資家は、ポートフォリオ全体でカーボン削減戦略を公表・実行することが求められ、ネットゼロカーボン経路に合わせて物件を改修する必要があります。cbre.com
- バーゼルIV銀行規制(2025年頃導入)は、不動産融資への自己資本比率を引き上げます。もし“ブラウン”な非効率物件に高リスクウエイトが適用されれば、資金調達コストが上昇します。cbre.com。オーナーは資産の流動性を保つためにもサステナビリティ改善を迫られます。
- 物件レベルで各国が建築物の省エネ基準を厳格化。例えば、協議中のEU 建物のエネルギー性能指令改正により、2030年までに一定性能未満の既存建物は賃貸不可など、最低基準が検討されています。フランスではすでに最低エネルギーラベル(G)の賃貸が2025年から禁止され、実質的に改修か市場からの撤退を強いられます。deepki.com。オランダではオフィス賃貸にEPCラベルC以上が義務。こういったルールは未対応資産の収益性・価値の低下(スタンディング)を招きます。CBREも「サステナ基準を満たさない資産は、改修コストの大きさから投資家による価格下落」と指摘しています。cbre.com
- 投資家コミュニティも自主規制を強化中:ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス等が2050年までのポートフォリオ脱炭素化を公約。ESG基準を満たさない不動産は大手投資家の購入対象外となり、売却マーケットが狭まっています。
要するに、ESG要素が物件の評価や賃貸そのものに直接影響する時代です。エネルギー効率化HVAC、太陽光パネル、BREEAM/LEEDなどのグリーン認証、健康的な屋内環境等を備えた建物は、需要が高く、テナント定着率も高く、家賃や資産価値でプレミアムを享受します。グリーン認証オフィスは未認証の物件より家賃で6%以上のプレミアムがつくという調査もあります。exquance.com。賃料安定・テナント長期化で投資家もグリーン資産の利回り圧縮(=キャップレート低下、価格上昇)を受け入れやすくなります。cbre.com cbre.com。逆に、古いハイカーボン物件はキャップレートが上がり流動性も低下。“ブラウンディスカウント”現象は欧州全域で顕在化しており、2028年までに格差はさらに拡大するとみられています。例えば、ロンドンのEPCレーティング低物件は高性能物件より明らかに利回りが高く市場で取引される—この傾向は今後一層広がるでしょう。
ESGは単なるE(環境)ではない:社会の側面は、手頃な住宅の義務付け、コミュニティへの影響、入居者のウェルビーイングのトレンドなどにみられます。政府が社会的価値を推進する中、手頃な住宅開発のための官民連携がさらに増えるかもしれません(すでにいくつかの都市では新しいプロジェクトに手頃な住宅を一定割合含めることが義務付けられています)。コミュニティ向けアメニティやウェルネス認証などに注力する開発業者は、入居者に対して優位性を得る可能性があります。ガバナンスについても—透明性や良好なコーポレート・ガバナンス—は投資家や金融機関から注目されており、資本調達を目指す企業にとって不透明なジョイントベンチャーや弱いリスク管理の時代は終わりつつあります。
しかし、業界ではESGへの反発や議論も生まれています。PwCのレポートでは2024年にESGが主要な影響要因として、従来のテナント需要や財務健全性に劣後したと指摘されています。一部の業界関係者は、積極的なESG対応のコスト/メリットに疑義を示しています pwc.com pwc.com。利益率が圧迫される中で、サステナビリティ向上のための大規模な投資は負担となる場合もあります。また、進化し続ける基準に対する不明確さも課題です—現在「持続可能」とされているものが20年後には変わるかもしれないと懸念する声もあります pwc.com。それでもなお、法規制がこの問題を推進しているのが現状です—2024年には不動産業界のプロフェッショナルの74%が自社への最大の影響要因は規制だと答えており、その多くがESG規制です pwc.com。これに応じ、積極的な企業は口先だけでなく実行へと動いており、自社ビルに再生可能エネルギーを導入したり、AIでエネルギー管理を行ったり、TCFDに沿った気候リスク開示も進めています。2028年までには、ESG遵守は必須条件となり、もはや選択肢ではなく基準となるでしょう。早期に適応した企業は、運営コスト削減や有利な資金調達(銀行によっては「グリーンローン」をやや低金利で提供)、優れたテナントとの関係といった恩恵を得られるかもしれません。一方で、遅れれば後になって多額の資本的支出や資産価値の減損に直面する可能性があります。
保険と物理的な気候リスクもESGの要素のひとつです。保険会社は高リスク地域(洪水地域や山火事多発地など)の資産に対して保険料を引き上げたり、提供自体を中止する動きもみられます。PwCは保険へのアクセスに対する懸念の高まりを指摘しています pwc.com。沿岸部や気候リスクの高い立地の物件では、堤防や排水などのレジリエンス投資が必要となる場合もあります。2028年までには、気候リスク分析が不動産取得時の標準的なデューデリジェンスとなり、融資にも影響を及ぼすでしょう(銀行がローン条件に気候リスクを織り込む可能性もある)。
まとめると、サステナビリティ・トレンドはEU不動産展望の象徴的なテーマとなっています。今後、次のような動きが予想されます:
- 大規模なリノベーションプロジェクト:EUの既存建築物の多くは古く、リノベーションは大きな課題であると同時に、何兆ユーロもの投資機会をもたらします。省エネ設備や断熱材の導入、木造構造への改修も進むでしょう。
- グリーンリースとテナント協働:家主とテナントが協力してエネルギー消費を削減(例:データ共有や、テナントが持続可能な実践を約束するグリーンリース条項の導入)。
- 素材・設計のイノベーション:木造建築やリサイクル素材、モジュラー建設による廃棄物やCO2削減などがESG目標によって加速します。
- 金融面での差別化:グリーンボンドやサステナビリティ連動ローン(ESG目標達成で金利が変動)がより一般的に。すでに2023年前半、欧州では多くのグリーン不動産債券が発行され、ESGリーダーには低コスト資金調達という利点があります。
- 公共セクターのリーダーシップ:政府やEU機関が模範的なサステナブル開発への直接投資を行うかもしれません(例:EU改修促進イニシアティブは2030年までに改修率倍増を目指しています)。また、都市ごとに国レベルより厳しい独自ルール(例:建物への都市レベル炭素税)も導入される可能性があります。
全体として、Net Zero Carbon(カーボンニュートラル)を2050年までにヨーロッパ全体で達成するため、不動産セクターは今後25年で大変革を迫られます—2025~2028年は、その変革の初期かつ重要な時期となるでしょう。すでに2025年には、投資家は気候移行計画の開示と実行を求められます cbre.com cbre.com。したがって2028年には実質的な進展が期待できるでしょう。この課題に応える資産・企業は価値向上や「キャッシュフローの安定化」が得られるかもしれません cbre.com cbre.com。一方、対応が遅れた場合は時代遅れになったり厳しい罰則に直面する可能性があります。
越境投資パターン
2028年までによりグローバルかつ相互に結びついた欧州不動産市場になると予想されます—ただし、一部では脱グローバル化の影響も見られるでしょう(例えば、遠隔市場依存ではなくヨーロッパ内の取引が増加)。越境投資はコロナ前水準まで回復または越えると見込まれます。想定される傾向は以下の通りです:
- 北米から欧州:北米の投資家(年金ファンド、プライベート・エクイティ、REIT)が引き続き欧州の主要プレーヤーとなります。彼らの資本規模はローカルプレーヤーを圧倒し、大規模なポートフォリオ買収を可能にします。米国およびカナダのグループは分散投資や有利な価格のために欧州への割当を増やすと予想されます。例として、米国オフィス市場が停滞し欧州オフィスが回復すれば、資本が欧州へ流れるでしょう。強いドルが続けば、これも追い風となります cbre.com。越境型M&Aもあり得ます―ヨーロッパ不動産会社が北米企業の買収対象となることも(実際、Brookfieldなどが英独企業に投資しています)。
- アジア/中東から欧州:アジア(シンガポール政府ファンド、韓国年金基金など)や中東の資金(サウジ、UAE、カタールのファンド)は非常に影響力があります。特に中東投資家は象徴的資産(ロンドンの超高層ビルやパリのランドマーク)を好む傾向があり、2025~2026年には高い原油収入を背景に投資が再加速すると見込まれます。アジア投資家は物流・テックセクターや主要都市のプライムオフィスに注目しそうです。一方で、中国本土の国外投資は中国国内情勢から減少しており、その空白はシンガポールGICなど他地域が埋めています(欧州物流や学生向け住宅分野で活発)。
- 欧州内取引:欧州の投資家同士も国境を越えて投資を増やします。例えば、ドイツのファンドはEU内のオフィスやリテール購入の伝統的な大口買い手で、資金流出が安定すれば再浮上するでしょう。フランス人投資家はスペインやイタリア、北欧投資家はバルト三国で資産を取得するかもしれません。また、英国がEU外となった今、Brexit不透明感で英国を避けていた一部EU投資家が高利回りを求めてUKに再参入したり(逆にUK投資家がEUへ進出したり)することが見込まれます。2028年までには英国とEU不動産の関係も標準化し、ロンドンが依然EU資金の呼び水となる一方、成長志向の英国資金が欧州都市へ向かう構図が見られそうです。
- 越境開発・JV(合弁)投資:単なる取得だけでなく、海外資本が開発も支援します。中東・アジアのパートナーが欧州都市で大規模な複合開発を共同開発する可能性も。例えば、北米ファンドが地元デベロッパーと組み、ポーランドで賃貸住宅ポートフォリオを築くなど、外国資本と現地ノウハウの融合となります。これらのJVはベストプラクティスの共有と市場の近代化を促進します。
- ターゲット市場の拡大:従来、越境資金はコア市場(英国・フランス・ドイツ)に向かう傾向ですが、今後はより高い利回りや成長を求めて「次の階層」市場にも分散します。例:ポーランド、スペイン、オランダ、アイルランド、ポルトガル、さらには東南欧の一部。2028年には、ギリシャやブルガリアなどにも機関投資家クラスの投資が及ぶ可能性があります(経済統合や利回り次第で)。
越境投資の増加は市場間の連動性を高めることにも注意が必要です。世界的なセンチメントが悪化すると越境投資家が一斉に引き上げて下落を助長します(2008年や2020年が好例)。逆に市場心理が良ければ一気に資金流入し、価格高騰を招くことも。ローカルプレーヤーは機敏さを求められ、これらの資金流動に合わせた協業やタイミング調整が重要となるでしょう。
国境を越えた活動のポジティブな側面は、イノベーションとスタンダードが広がることです。国際的な投資家はESG(環境・社会・ガバナンス)への期待を持ち込んでおり(現在、多くの北米および欧州の機関投資家は同様のESG目標を持っています)、これが彼らが投資するすべての市場でグリーンスタンダードを普及させるのに役立ちます。また、彼らは運営ノウハウも持ち込みます。例えば、新しい市場に最新の不動産管理技術を導入することなどです。
国境を越えた資本は「オルタナティブ(新しい分野)」にも注目しています。外国人投資家が資産だけでなくプラットフォームまでも買収する動きが予想されます。たとえば、米国のプライベート・エクイティ企業が欧州の学生住宅オペレーターを買収して足掛かりとしたり、アジアのファンドがデータセンター開発会社に投資したりするケースです。こうしたプラットフォーム型の取引は、ヨーロッパ大陸全体のその分野の成長を加速させる可能性があります。
2028年までに、ヨーロッパでも海外投資が増加するかもしれません。ヨーロッパの投資家が海外に進出するのです。現状、ヨーロッパの機関投資家は主にヨーロッパ内や米国に投資していますが、国内市場が高騰したり競争が激化したりすれば、アジア太平洋地域や他の地域に資金配分を調整する可能性があります。しかし、ヨーロッパが直面している課題(住宅、気候変動適応など)に対応するために資本が必要なため、国内で多くの資本が吸収される余地は十分にあります。
要約すると、国境を越えた資金の動きは高いボリュームと多様なソースに戻り、ヨーロッパが世界の不動産資本の主要な受け皿であり続けることを強化するでしょう。国内資本と外国資本の相互作用が価格付けに影響を与えるでしょう――例えば、国内銀行が特定分野への融資を制限すれば、外国資本が値引きされた資産を拾い上げ、その後状況が改善した時に恩恵を受ける可能性があります。為替トレンド(資金の流れに影響、ユーロ安なら流入資金、ユーロ高なら逆)や政治情勢(投資協定、外国人バイヤーへの課税――カナダ・ニュージーランドは住宅購入に外国人規制を導入、ヨーロッパでももし同様の動きがあれば資金の流れが変化するが、現状広範な動きは見られない)を注視することが重要です。
結論
2025年は転換点となります。欧州連合(EU)の不動産市場にとって、住宅および商業分野の両方が調整と不確実性の時期から安定化と選択的成長の段階へ移行しています。マクロ経済環境――穏やかなGDP成長、インフレの沈静化、金融引き締め解除――は、不安定だった過去数年よりも不動産取引の土台をより堅固なものにしています。EU全体の住宅市場は、根本的な供給不足と信用条件の改善に支えられおおむね回復基調ですが、手頃な価格や政策介入が回復のペースを抑制します。商業用不動産は新たな道を歩んでいます。オフィスは高品質な用途へ進化し、小売はオムニチャネル世界での立ち位置を確立し、物流は構造的な追い風が続き、代替分野は台頭しています。
2028年までを見通すと、慎重ながらも楽観的な見通しと言えます。業界リーダーの多くは今後数年間の事業信頼感や収益性の向上を大いに期待しています pwc.com。ただし、経済の停滞や地政学的不安などのリスクを十分認識しており、今サイクルは前回とは異なる展開になると理解しています。サステナビリティとイノベーションこそが差別化要因となります。ESG課題への積極的な対応、建物の改修、テクノロジー活用が、新時代の欧州不動産で成功するためのカギとなるでしょう。ある企業幹部が要約したように、今や成功のカギは「5つのD」――負債、人口動態、脱炭素、脱グローバル化、デジタル化――をどう乗り越えるかに掛かっています europe.uli.org。
2025年から2028年にかけての欧州不動産市場は変革に特徴づけられるでしょう。老朽物件を環境にも使いやすい空間へと転換し、都市をより住みやすくレジリエントなものへと変え、産業慣行も透明性・データ主導型に変えていく。世界資本がヨーロッパへ再流入し(分散投資、近年の投資不足という必要性、割安感や構造的需要という機会)、投資回復は本格化します。国境を越えた投資やパートナーシップが、新たな住宅、インフラ、リノベーションの供給に不可欠となるでしょう。
住宅分野では、政府と民間が協調し投資インセンティブを損なうことなく供給を拡大できれば、今後数年のうちに住宅不足の緩和が見込まれ、価格安定と社会全体の利益につながる可能性があります。商業用不動産では、柔軟な働き方や新しい消費行動を受け入れれば、自ら適応した資産が再活性化し、適応できないものは衰退するかもしれません。2028年には、よりレジリエントでサステナブル、テクノロジー活用型の欧州不動産市場が形成され、あらゆる課題の中に成長機会が生まれるでしょう。
最終的に、EUの不動産市場は慎重と好機が交差する分岐点に立っています。今後数年でこの分野は新たな地平を切り開くことになるでしょう。そこでは短期的な流行よりも、長期的な価値創造志向と慎重な楽観論が原動力です。その証拠として、欧州不動産リーダーの80%が2025年にビジネス信頼感と利益が向上または安定すると期待しており、この慎重な楽観を反映しています pwc.com。ただし、不確実性を警戒し、必要があれば軌道修正する準備も怠りません。高品質な空間を求めるヨーロッパ人の根強い需要を背景に、それぞれの戦略がマクロの現実、社会的ニーズ、サステナビリティ要請に沿っているかが、2025年から2028年以降のEU不動産市場で主導権を握るカギとなるでしょう。
出典:
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- CBRE サステナビリティ章、展望2025 – ESG報告義務(CSRD/ESRS)、利回り・移行計画への影響 cbre.com cbre.com
- PwC/ULI Emerging Trends Europe 2025 – ESG課題および業界の対応 pwc.com pwc.com
- JLL グローバル不動産パースペクティブ 2025年5月 – 2025年第1四半期取扱高増加(検索スニペット参照) jll.com
- Savills 欧州投資見通し – 2025年・2026年取扱高増(検索スニペット参照) savills.com
- Knight Frank ESG展望 2025 – グリーンビル賃料プレミアム(検索参照) exquance.com
- PwC/ULIのCEOインタビュー – 「5つのD(負債、人口動態、脱炭素、脱グローバル化、デジタル化)」と利益の関連 europe.uli.org。