はじめに
数年間の激動の後、2025年の米国不動産市場は、安定化傾向と慎重な楽観主義が見られる新たな局面に突入しています。住宅部門と商業部門の両方が、パンデミック、急激な金利上昇、高インフレという衝撃を乗り越えてきました。2025年および今後数年を展望すると、依然として供給不足ながらも徐々に在庫が改善している住宅市場と、産業用や多世帯住宅のように好調な分野がある一方、特にオフィス市場が回復を目指す商業部門の姿が見えてきます。数十年ぶりの高水準に急騰した金利は今後やや緩和される見通しであり、購入者の行動や投資戦略に影響を与えます。本レポートでは、住宅・商業不動産、地域別の動向、主要な推進要因、そして投資家が直面するリスクとチャンスについて、2028年までの現状と予測を包括的に解説します。
主なポイント: 全米の住宅価格は2020〜2022年の急騰から落ち着き、現在はかなり緩やかな上昇となっています(一部の予測では2025年に緩やかな下落も予想されています)zillow.com。販売件数は依然としてコロナ禍前の水準を下回っていますが、モーゲージ金利が緩和され、供給が増えることで今後回復に向かうと見込まれます realestatenews.com。商業不動産は分化しつつあり、産業用・多世帯住宅は引き続き旺盛な需要があり、小売物件も空室率が低い状況ですが、オフィス市場は高い空室率が続くものの底打ちが近いとの見方もあります cbre.com cbre.com。全米ではサンベルト市場やその他手頃な地域が成長を牽引する一方、過熱感のあった一部の市場は小幅な価格調整を経ています nar.realtor。人口動態の変化(たとえばミレニアル世代の購買層への移行)、リモートワークやECなど技術の変化、マクロ経済情勢なども、今後の不動産マーケット形成要因となります。以下のセクションでは、2028年までの各分野・地域ごとの見通しを詳細に解説していきます。
I. 住宅不動産のトレンド(2025年)
住宅価格と販売件数
パンデミック期に見られた住宅価格の急騰は、2024~2025年に入ってその勢いが落ち着き、遥かに緩やかな伸びになっています。全米的に見て、住宅価格は過去最高水準に近いものの上昇幅はごくわずかです。2025年第1四半期の一戸建て既存住宅の中央値は40万2,300ドル、前年比3.4%増でした nar.realtor。これは2021~2022年に見られた2桁成長からは大きく後退しています。実際、2025年初頭に二桁の価格上昇を記録した都市圏は全体の11%(2024年末は14%)nar.realtor、逆に2025年第1四半期に前年比で価格下落が見られた市場が約17%存在しました nar.realtor。直近1~2年で価格が下落した「過熱」市場(ボイジー、ラスベガス、ソルトレイクシティ、サンフランシスコ、シアトルなど)は、新たな条件に適応した買い手の動きにより現在は回復基調です nar.realtor。逆に、オースティン(TX)、サンアントニオ(TX)、ハンツビル(AL)、マートルビーチ(SC)、および一部フロリダ市場といったまだ価格下落が続く地域は雇用成長が旺盛なため、近い将来安定・回復が見込まれます nar.realtor。全体として、経済成長・人口増加が堅調な手頃な地域で価格の底堅さが目立つ一方、高価格帯の沿岸部市場では価格上昇が一服またはごく微増にとどまり、購入余力(アフォーダビリティ)の限界を示しています nar.realtor。
直近2年間で住宅販売件数は大きく減少しましたが、これは主にモーゲージ金利高騰によるものです。2023~2024年の既存住宅販売件数は、年間約400万戸ペースと過去30年で最低水準に落ち込み、多くの買い手が価格や金利の高さで購入を断念し、売り手も低金利ローンに留まる傾向となっています nar.realtor realestatenews.com。ただし、転機の兆しも見え始めています。全米リアルター協会(NAR)によれば、2024年末の仮成約件数は前年比でようやくわずかに増加し nar.realtor、新築・既存を問わず住宅在庫が長期の低水準を経て少しずつ増加し始めています nar.realtor。潜在需要は大きく、米国人口は1995年以来7,000万人増えましたが、年間住宅販売数は当時と概ね同水準です nar.realtor。つまり多くの世帯が購入を先送りしており、条件が改善すれば市場に戻る可能性があります。実際、NARチーフエコノミストは販売回復を予測しており、2025年の既存住宅販売は約6%増、新築販売は約10%増を見込んでいます realestatenews.com。他の予測はより慎重で、たとえばZillowは2025年の既存住宅販売は約1.4%増(約412万戸)と予想しています zillow.com。しかし、おおむね2025年は販売件数が上向く(さらに減少しない)という見方が多く、今後も金利低下や新築供給増を条件に、2026~2028年にかけて販売件数は緩やかに回復すると大半のアナリストが予想しています(詳細はセクションVII「予測」参照)。
住宅供給と在庫水準
住宅在庫 ―つまり売り出し物件数―は過去数年で慢性的な不足が続き、これが高金利下でも価格を下支えしてきました。しかし、ここにきて在庫は記録的な低水準から回復傾向にあります。Realtor.comによると、2024年末の売り出し中住宅数は2019年以来で最多となり、新築物件の増加と市中の売物件の販売日数増加が背景です realtor.com。それでも依然として市場均衡には程遠く、2024年末時点の全米在庫は2017~2019年平均の20%下でした realtor.com。一言で言えば、「半分満たされたか、半分しかないか」という状況で、改善傾向ではあるものの多くのエリアでは購入者の選択肢が依然不足しています。重要なのは、地域ごとに在庫回復に差がある点で、南部と西部はプレ・パンデミック水準への回復が最も進み、中西部と北東部は依然としてタイトです realtor.com。これは新築供給増や人口移動が大きいサンベルト市場などで供給が増えている一方、中西部・北東部では新築着工や売却の動きが限られるためと思われます。
より大きな視点では、米国住宅市場は引き続き構造的な住宅不足に苦しんでいます。Zillowの最新分析では、全米で「健全な」供給に対して約450万戸の住宅が不足していると推定されています businessinsider.com。過去数年で住宅建設は活発化し、米国住宅着工数は2006年以来の高水準に達しましたが、人手不足・資材高騰・土地利用規制などにより新規供給のペースにも限界があります。2024年には建設業者の資金調達コスト増加で住宅着工はやや減速しました。今後、ファニーメイは2025年に着工はやや減るが、2026年から再び増加すると予測しています businessinsider.com。モーゲージ銀行協会(MBA)も同様に、2025年の新築供給は横ばい、その後は緩やかに増加すると予想しています businessinsider.com。つまり供給不足解消は段階的であり、住宅価格の急騰は抑えられるものの、一気に不足が解消することはないと考えられます。
既存住宅在庫を抑制している主な要因は、いわゆる「ロックイン効果」です。現在の住宅所有者の何百万人もの人々が、2020~2021年に超低金利(多くは3%以下)の30年固定住宅ローンを確保していました。現在の住宅ローン金利が6~7%程度となっているため、こうした所有者が家を売り、現行金利で新たに購入し直すには大きな損失を被ることになります。その結果、多くの人が引っ越さないことを選択しており、中古住宅在庫が市場に出にくくなっています。NARのローレンス・ユン氏は、このロックイン効果が供給に重しとなっていると指摘していますが、時間の経過とともに、人生の転機によって引っ越しが不可避となることで、この効果は徐々に薄れていくはずだとも述べています(毎年、結婚・離婚・出産・転職・定年退職など、金利に関係なく売却が発生するライフイベントは数百万件あります)nar.realtor。さらに、もし住宅ローン金利が少しでも下がれば、これらのオーナーが自宅を売りに出す動機が高まります。実際、今後数年で金利が「通常」水準(たとえば5%以下)に近づけば、多くの専門家は、市場に出るのを待っていた売り手が一気に放出され、在庫不足が緩和されると予測していますbusinessinsider.com。
賃貸動向および賃貸住宅市場
賃貸市場は、パンデミック直後に急上昇し、2021~2022年には過去数十年で最速の家賃上昇率を記録しました。その後、新規アパート供給の波と、家賃負担の限界到達により、家賃上昇ペースは大幅に落ち着きました。2025年初頭時点では、全米平均の家賃上昇は控えめで、概ね一般的なインフレ率と同水準か、やや下回る程度です。たとえば、2025年5月の米国平均募集家賃は、前年比約1.0%増にとどまっておりyardimatrix.com、これは数年前に見られた年10~15%の急騰から大きく減速したものです。RealPageのデータによると、2025年3月までの1年間では実効家賃がわずか1.1%上昇しており、これは1年以上ぶりで最も高い年間上昇率ですが、それでも非常に控えめですrealpage.com。この落ち着きは供給増が背景にあります。開発業者が2023~2024年に一気に集合住宅を供給しており、これは1980年代以来の新規アパート完成件数の最高レベルとなっていますmf.freddiemac.com。選択肢が増えた結果、入居者は交渉力を得ており、多くの都市で家主は空室を埋めるために割引や優遇を余儀なくされています。
この建設ラッシュにもかかわらず、賃貸需要は堅調さを維持しており、大半の市場で深刻な供給過剰は起こっていません。全国の賃貸住宅空室率は2025年第1四半期で7.1%となり、1年前の6.6%からわずかに上昇していますadvisorperspectives.com。つまり、空室率はわずかに増加したものの、歴史的な水準から見ればまだ低く(参考までに、2010年代後半の賃貸空室率は8~10%が普通でした)、新築アパートの多くはややペースが落ちたとはいえ、十分吸収されている状況です。その理由は、米国の雇用市場拡大や、若年層による世帯形成、新築購入コストの高さから賃貸市場に留まる人が多いといった、賃貸需要の基盤が非常に強いためです。Freddie Macは、集合住宅需要は「例外的」に強いものの、過去最高水準の新規供給によって家賃上昇が緩やかになり、一部地域では空室率が高止まりしていると指摘しますmf.freddiemac.commf.freddiemac.com。2024年、全国集合住宅空室率は6%前後で推移し、**Freddie Macの基本シナリオでは2025年には6.2%までわずかに上昇すると予測されています(新規供給がさらに増えるため)mf.freddiemac.com。ただし、これはピークと見込まれています。金利上昇に対応して建設ペースが鈍化すれば、供給パイプラインは縮小する方向です。実際、**集合住宅ディベロッパーは慎重になっており、2025年の新規着工件数はパンデミック前の平均より3割ほど下回る見込みです(CBRE調査)cbre.com。2025年後半以降、新規竣工件数の伸びは緩やかになり、アパート市場は再び需給が引き締まると考えられています。
家賃予測もこうした動向を映しています。Zillowの最新見通しでは、一戸建て賃貸の家賃が2025年に3.2%、集合住宅(アパート)の家賃が2.1%上昇すると予測していますzillow.com。また、Freddie Macも2025年の全米家賃上昇率は約2.2%と、長期平均よりやや低いレベルと予測していますmf.freddiemac.com。こうした2025年の小幅な上昇はむしろ2024年からの反発で、2024年の家賃上昇は多くの都市でゼロに近い低水準でした。つまり、家賃は急騰していませんが、持続可能なペースでじわじわと上昇し続けているのです。家賃動向は市場セグメントごとに異なります。一戸建て賃貸(貸家)は集合住宅よりも需要・家賃上昇が強く、住宅購入できない家族層が郊外の住宅を借りる傾向が強まっていますzillow.com。この動きは投資家の一戸建て賃貸物件への関心につながっています。
2025年以降を見据えると、多くのアナリストは2026年も家賃上昇は穏やかで、2027~2028年にかけて現在の建設ラッシュが吸収されれば再び加速する可能性があると予想しています。2030年代前半には、歴史的な家賃平均上昇率(年3%程度)への回帰が十分あり得るとされていますmf.freddiemac.com。実際、すでにいくつかの地域(サンベルトや中西部の都市など)では、人口流入や雇用成長の強さから、全米平均を上回る家賃上昇が続いていますarbor.com。全体的に、賃貸市場のファンダメンタルズ(雇用・人口動態)は堅調で、需給バランスこそが家賃動向を左右するでしょう。目先は供給力の強さが家賃を抑制し、賃借人に選択肢を与える時代であり、2026~2028年に建設縮小が進めば、雇用増加や新規住宅開発が乏しい市場で家主側の価格決定力が再び強まるでしょう。
II. 商業用不動産の業種別トレンド
住宅不動産が多くの注目を集める一方で、商業用不動産(CRE)分野は、オフィスビル、小売センター、工業用倉庫、アパート、ホテル、データセンターなど、幅広い分野を含む巨大なマーケットです。2025年のCRE見通しは、業種ごとで大きく異なるのが特徴で、不動産タイプごとに顕著なパフォーマンスの差が見られます。以下では、米国商業不動産市場の大半を占める主要4分野、すなわちオフィス・小売・工業・集合住宅の動向を解説します。各分野の最新情勢と今後の展望をまとめます。
オフィス分野
オフィス市場は、パンデミック以降、商業用不動産で最も厳しい試練に直面してきました。リモートワークやハイブリッドワークの普及により、多くの都市でオフィス需要が構造的に減少し、この分野の空室率上昇や不動産価値下落が続いています。2024~25年時点で、多くの都心オフィスタワー、とくに旧耐用年数のものは入居率が低く苦戦しています。全米平均のオフィス空室率は過去最高レベルで、オフィススペースのおよそ18~19%が空室となっています。主要都市では空室率が20%を超えるケースも珍しくありませんcbre.comcbre.com。また、企業が過剰に保有するスペースのサブリース(再賃貸)の供給も豊富です。これらの状況により、コモディティオフィス(標準的なオフィス)の賃料は強い下押し圧力を受け、オフィスオーナーによるローン満期時に金融的苦境も増加しています。要するに、オフィス分野は現状「不況」段階にあります。
とはいえ、オフィス市場は底打ちしつつあり、ゆるやかな回復局面に入り始めているという兆候も出てきています。CBREの2025年見通しでは、オフィスの賃貸契約件数が2024年から増加に転じ、2025年にはさらに改善が期待される(ただし緩やか)とされていますcbre.com。全体的なオフィス賃貸ボリュームは2025年に5%増加する見通しであり、数年にわたる縮小からの歓迎すべき反転ですcbre.com。また、オフィスの新規建設もほぼ停止状態であり、これが過剰供給のさらなる拡大を抑える助けになりますcbre.com。企業はハイブリッドワークに順応しながらも、共同作業や企業文化のためにオフィスを一定程度必要と考えるようになり、従業員1人あたりのスペースを減らしたり、立地を変更したりしつつも「純粋な縮小」から「安定化や選択的拡張」へと利用者マインドが徐々にシフトしつつあります(業界調査より)cbre.com。多くのテナントが(規模の縮小や「質への移行」を伴いながらも)契約を更新する動きが広がっており、稼働率安定に寄与しています。
一つはっきりとした傾向は、オフィスマーケットの二極化です。新しく高品質な(「クラスA」)オフィスビルは優れたアメニティを備えているため、老朽化した旧式ビルと比べてはるかに健全な需要を見せています。各市場の最上位オフィスビル(プライム・オフィススペース)は、一部都市で実際に希少になっています。テナントがより良い物件に集約しているためです。cbre.com。CBREは「プライムオフィス」を最高のビルと定義しており、質の高いオフィスへの需要から、2027年までにプライムオフィスの空室率がパンデミック前の水準(約8%)に戻ると予測しています。cbre.com。対照的に、低品質のオフィスは今後も苦戦が続くとみられ、用途変更(住宅や他の用途への転換候補となるものもありますが、転換はしばしば複雑です)が必要になるかもしれません。全体として、オフィス空室率は全米で約19%でピークを迎え、その後経済成長とともに徐々に減少する見込みです。余剰スペースがゆっくりと吸収されていきます。cbre.com。オフィスの回復は急速ではなく、着実なものになる見通しです。2027年までには大半のアナリストがオフィス需要が2020年以前の常態に戻るとは予想していませんが、最悪期はすでに過ぎ去った可能性があります。投資家はこのセクターに慎重にアプローチしています。困窮したオフィス資産を大幅な割引価格で取得する機会もありますが、投資リスクは非常に高いため、より堅固な現代的な物件や一等地へ焦点を当てる必要があります。
小売セクター
小売不動産分野(ショッピングモール、ストリップセンター、大型店舗、ダウンタウンの店舗など)は、パンデミック後の底から見事な回復を遂げました。初期のコロナ禍によるロックダウンは実店舗型小売業に大打撃を与え、弱い小売企業の淘汰を加速させました。しかし、生き残った小売業者は新たな状況下で競争減と新規供給の著しい制限という有利な環境を手に入れました。その結果、2025年の小売不動産のファンダメンタルズは近年でもっとも健全と言える水準にあります。国内の小売空室率は5%未満で、主要な商業用不動産種別としては最低水準です。cbre.com cbre.com。多くの市場では、質の高い小売スペース(特に立地の良い郊外型センターやスーパーを核店舗とするストリップモール)は満室稼働です。その要因のひとつが、ここ数年ほとんど新規小売スペースが供給されていないことであり、需要が供給に追いついた形となっています。開発業者は小売開発に慎重(主にEコマースの脅威による)であり、既存のセンターは新規プロジェクトからの競争がほとんどありません。cbre.com
その結果、長年停滞していた小売賃料は上昇傾向にあります。一等地の家主が再び価格決定力を持ち始めており、2025年には小売店舗の募集賃料が低い空室率を背景に上昇する見込みです。cbre.com。多くの小売業者(特に全国チェーン)は、今後さらなる賃料上昇を見越して、長期契約で好立地を確保しようとしています。cbre.com。重要なのは、小売業の業績は形態ごとに異なることです。郊外のオープンエア型またはコミュニティ型ショッピングセンター(しばしばスーパーや必需品店が核店舗)は好調で高い入居率を維持していますが、旧型閉鎖型モールの一部は、再開発や用途転換がなければ引き続き課題を抱えています。とは言え、2022〜2023年には消費者の実店舗回帰によってモールも来客数が回復。富裕層エリアのAクラスモールはまずまず堅調で、下位モールは複合用途施設や物流拠点などへ転換が進んでいます。
地理的には、小売業の拡大は成長著しい市場に集中しています。リテーラーは人口増・雇用増が著しい都市圏、例えばフェニックス、オースティン、ダラス、ナッシュビル、シャーロットといった主要市場をターゲットにしており、小売賃貸活動がそちらへ向かっています。cbre.com。こうしたサンベルトや成長市場では人口流入が多いだけでなく、往々にして住宅価格も安価なため消費者の可処分所得が地元店舗での消費へと回りやすい傾向があります。さらにインフラ整備が進むエリア(新しい高速道路・鉄道など)は利便性向上に伴い新たな小売開発が促進されやすくなっています。cbre.com。長年小売分野に慎重だった機関投資家も、健全なファンダメンタルズを背景に徐々に復帰しています。総じて、2025年の小売不動産市場の見通しは慎重ながらも楽観的です。低空室率と緩やかな賃料上昇が続くと予想されます(大幅な景気後退がなければ)。注意すべきリスク要因はEコマースです。オンライン売上は日々拡大中で、今や小売売上全体の約15%を占めており、実店舗小売業者は今後も進化し、オンラインが提供できない体験や利便性を提供し続けなければなりません。ただし「Eコマースが全ての店舗を淘汰する」というシナリオは誤りであり、米国では長年の統合を経て適正規模の店舗数になり、生き残ったセンターが恩恵を受けている状況です。
産業・物流セクター
産業用不動産(主に倉庫、配送センター、製造施設)は、近年最も好調な分野でした。Eコマースの爆発的な成長やサプライチェーン構造の変化(国内在庫の積み増しなど)によって、2020年から2022年にかけて倉庫スペースの記録的な需要が生まれました。2023年には産業部門の空室率が多くの市場で過去最低(しばしば4%未満)となりました。開発業者はそれに応じて建設を急増させましたが、2023年後半にはリース需要が正常化し、やや冷え込みも見られました。2025年を迎える段階で、産業市場の根本的な強さは維持されているものの、Eコマース全盛期のような過熱感はなくなりました。新たな倉庫施設の供給増によって全米の産業用空室率はやや上昇しましたが、それでも依然として低水準で、短期的には「テナント有利な」市場とみなされています。cbre.com。老朽化し効率の悪い倉庫の空室率は高まっています。テナントが新しい「ハイクーブ(高天井)」施設へシフトしているためであり、これはオフィス部門にもみられる“質への回帰(フライト・トゥ・クオリティ)”現象に類似しています。cbre.com。しかし、2025年末にかけて建設パイプラインが減少し、需要が伸び続ければ再び逼迫状態に戻る見通しです。cbre.com
2025年の産業用需要を左右する要因はいくつかあります。第一に、貿易政策やリショアリング(生産回帰)トレンドの影響が大きいです。2024年に導入された米国の対外関税引き上げを受け、多くの企業が(関税発動前に商品を輸入しやすくするため)国内での在庫量を増やしたり、米国内または近隣諸国での生産を検討する動きがみられます。cbre.com。CBREは、これが米墨国境やI-35、I-29など主要南北物流回廊沿いの産業施設需要を押し上げると指摘しています。cbre.com。サンアントニオ、オースティン、ダラス・フォートワース、オクラホマシティ、カンザスシティ、デモイン、ミネアポリスといった都市は、北米大陸内の物流ルート上という地理的優位により、この潮流の受益地として挙げられます。cbre.com。第二に、産業用テナントの構成が変化しつつあります。サードパーティ・ロジスティクス(3PL)事業者のリースシェアが拡大しており、多くの企業が倉庫業務を専門事業者へアウトソースしているのです。CBREは、2025年には3PLが産業用賃貸取引量の3分の1以上を占めると予測しており、柔軟かつオンデマンド型のサプライチェーンへのシフトを反映しています。cbre.com
量的観点から見ると、全米の工業用リースは2025年に8億平方フィート強になると予測されています cbre.com。これはパンデミック期のピーク(2021年は特に需要が非常に高かった)には及ばないものの、パンデミック前の基準は依然として上回っています cbre.com。基本的に、工業セクターはハイパー成長からより持続可能な成長率への転換期に入っています。一方供給側では、数年間の「旺盛な建設活動」の後、ディベロッパーが減速に転じています。新規工業用建設の着工数は急激に減少しており、2025年は2024年比で50%以上減少する見込みです cbre.com。この一時停止により、市場は既存の投機的プロジェクトを吸収することができています。2025年後半には、これらスペースの稼働が進むにつれて、特に主要な物流拠点の近代的施設では貸主側に有利な状況が再び訪れる可能性があります。そのため、工業用スペースの賃料上昇は今後もプラスを維持するものの、緩やかになる見込みです。市場によっては一時的な過剰供給から譲歩(引き下げ)が見られるかもしれませんが、全体的にはインフレや高い代替コストが賃料水準を下支えします。まとめると、工業セクターの見通しは非常に良好です。eコマース拡大、サプライチェーン再編、そして新規供給の少なさが健全なファンダメンタルズを支えています。大規模な景気後退がなければ、倉庫は今後数年にわたって高い稼働率と着実な賃料上昇を享受し、不動産投資信託(REIT)やプライベートエクイティファンドなど機関投資家の引き続きの人気投資先となるでしょう。マルチファミリー(集合住宅、アパートメント)セクター
マルチファミリーセクター(5戸以上の大型マンション・アパート)は、一般的には住宅用不動産に含まれますが、投資家にとっては主要な商業資産クラスでもあります。2025年のマルチファミリーは、大きな供給増と堅調な入居需要が同時に存在する独特の局面を迎えています。先述の通り、2023~2024年は新築アパート数が記録的に増加し、全米の空室率が上昇し賃料上昇率が減速しました。投資家にとって、これは供給過多エリアでは譲歩(値引き)の増加や営業純利益の横ばいにつながりました。しかしながら、マルチファミリーのファンダメンタルズは決して弱いわけでなく、極めてタイトだった市場から正常化しているにすぎません。2025年に進むにつれ、新規供給からの圧力は徐々に緩和される見込みです。CBREは、2025年には実際に空室率がやや低下(年末には約4.9%、2024年後半の約5.3%から低下)し、全国平均賃料も通年で約2.6%増加に転じると予測しています cbre.com。同様にFreddie Macも、2025年の賃料上昇率を2%台前半、空室率も軽微な増加(約6.2%、RealPage基準)にとどまると予測しています(経済がソフトランディングする場合) mf.freddiemac.com。要するに、マルチファミリー市場は2025年も全米的にはバランスが取れた状態—貸主・借主いずれ有利とも言えない—であり、2024年と比較してやや改善する見込みです。
重要な要因として、世帯形成の強さは今後も継続する見込みです。人口動態や経済状況は継続的な賃貸需要を後押ししています。雇用増加はパンデミック後ほどではないものの依然としてプラスであり、また大規模なミレニアル世代が家庭形成の適齢期を迎えています。多くの若年成人は好みによる場合も、住宅価格や金利高騰で購入を先送りする場合も含め、引き続き賃貸で生活しています。さらに、2022~2023年に再び増加した移民も賃貸需要に寄与しています。米国経済が大幅な後退を避ける限り、今後数年で何百万世帯もの新しい賃貸世帯の増加が見込まれ、これが新規供給の吸収を助けます。
地理的には、供給の集中傾向が顕著です。近年の新築アパートの多くは「サンベルト」—特にテキサス、フロリダ、カロライナ州、ジョージア、アリゾナ、そして山岳西部の一部—に集中しています。実際、米主要16大マルチファミリー市場のうち10都市で既に建設ピークを迎え、残る6都市も2025年にピークを迎える見込みです cbre.com。つまり、2026年までにはほぼすべての大都市圏で新規供給が減少に転じると見られます。供給主導だったサンベルト都市圏は短期的には冷え込む傾向(たとえば今年のオースティン、ナッシュビルでは空室率上昇)が見込まれますが、人口増によって長期的には新規供給も吸収されると考えられます。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど沿岸部のゲートウェイ都市は新規開発が相対的に少なく、賃貸住宅の供給不足が続いており、そうした都市では都市回帰の動きとともに稼働率が堅調、賃料も再上昇しています。注目のトレンドは、中西部のマルチファミリー物件に投資家が関心を強めていることです。インディアナポリス、カンザスシティ、シンシナティなど中西部の都市は高い手頃さと安定した経済が特徴であり、今後数年間、中西部では年4~5%の賃料上昇が持続するとの予測もあります multihousingnews.com(低い基準からの上昇)。
投資家目線で見ると、マルチファミリー物件は依然としてリスクの低い商業用資産とみなされています—人々は必ず住まいを求めるからです。その一方で、金利上昇はマルチファミリーの資産価値に影響を及ぼしています。従来のように低金利の借入で投資利回りを高めることが難しくなっています。キャップレート(不動産利回り指標)は2021年の最安値から上昇し、そのため賃料は上昇しているのに価格はやや下落しています。CBREは、2025年には金融環境の緩和を受けてキャップレートが安定または若干低下すると予測しています cbre.com cbre.com。実務的には、2025~2026年はマルチファミリー投資の魅力的なタイミングとなり得ます。今後さらに金利が下がれば価格が再び上昇する可能性があるためです。リスク要因としては、著しい景気後退(雇用喪失による家賃支払い能力の低下)や一部エリアの過剰供給ですが、全米的な長期見通しは堅実です。2026~2028年には現在の新規物件が吸収され、供給不足となる都市も増え、賃料上昇に拍車がかかる可能性があります。ディベロッパーは高い資金調達コストを考慮し、過度な建築を控えている—実際、2025年のマルチファミリー新規着工は過去数年より大幅に少ないとの予測です cbre.com。これが数年後の需給バランスに有利に働くと考えられます。
(注:ホテルやデータセンターなど他の商業セクターも言及の価値はあります。ホテルは旅行需要の回復とともに大きく反発していますが、金利高により新規開発には制約が続きます。データセンターはクラウドやAI普及の影響で驚異的な成長を遂げており、2025年の需要は「極めて過熱」—空室率3%未満、建設も記録的水準とCBREは伝えています cbre.com。ただし本稿ではご要望の主要セクターに絞って解説します。)
III. 金利・住宅ローン動向
金利—特に住宅ローン金利は不動産市場において極めて重要な役割を果たします。過去2年間、金利の急騰は住宅市場にとって最大の逆風でした。2020~2021年には30年固定金利の住宅ローンは3%前後で推移し、購入ブームを引き起こしました。しかし2023年後半には同金利が7%超にまで跳ね上がり、約20年ぶりの高水準となりました。この急騰はインフレ抑制を狙ったFRB(米連邦準備制度)の積極的な利上げ政策に起因—2022、23年の利上げに伴い経済全体の借入コストが上昇したためです。高金利は住宅取得の負担を極めて大きくし、例えば7%金利では3%時と比べて同額の月々支払いで借り入れできる金額が大幅に減少します。NARによると、標準的な物件(頭金20%)の月々支払額は2025年初頭約2,120ドルに達し、住宅価格上昇の鈍化にもかかわらず前年比4.1%上昇しました nar.realtor。この負担増で多くの購入希望者が市場から撤退し、住宅販売は2023—24年に金利の影響で景気後退時の水準まで落ち込みました。
2025年の朗報は、金利環境が安定しつつあり、救済が近づいていることです。インフレ率がピークから低下したことで、連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを控えました。実際、FRBは2024年末にいくつか小幅な利下げを実施しました nar.realtor。2025年半ば時点で、連邦資金金利は安定するか、インフレ率が許せばさらに低下すると予想されています。しかし、住宅ローン金利はFRBの利下げと完全に連動して下がることはない点に注意が必要です nar.realtor。2024年末にFRBが利下げを始めた際も住宅ローン金利はほとんど動かず、NARのユン氏は「膨れ上がった連邦赤字」などが長期金利上昇圧力を維持しており、住宅ローンの急激な低下を妨げていると指摘しました nar.realtor。急激な金利低下ではなく、今後数年間で徐々に住宅ローン金利が緩和すると多くのアナリストは見ています。ファニーメイの最新予測は、2025年末の30年固定金利が約6.2%、2026年末には約6.0%と予想しており、2025年半ばの約6.6~6.7%からみてわずかな改善にとどまります mpamag.com。モーゲージ・バンカーズ・アソシエーションはやや楽観的で、2026~27年に5%台半ばまで金利が下がる可能性を見ていますが、それでも近年の超低金利からはかなり高い水準です。要するに、借入コストは2010年代より高止まりするものの、2023年のピークよりはやや低下する見込みです。
購入者にとって、2025年~2028年は期待値の調整が必要になるでしょう。買い手は中期的にはやや高い金利を“新たな常態”として受け入れる必要があるかもしれません。住宅ローン商品選択にも影響が出ます。金利が3%だった際にはほとんど全員が30年固定ローンを選びましたが、6~7%になると、変動金利型ローン(ARM)や一時的な金利買い下げ(売主やビルダーが初年度~2年間の金利を補助)へ関心が集まります。また、引受可能型住宅ローンなどの工夫も登場しています。これにより、売主の低金利FHAやVAローンを引き継げる場合、プレミアムを支払ってでもその家を購入するバイヤーも出てきます。金融機関も「40年ローン」や「シェアードエクイティ型商品」の導入を始め、手頃さを支援しています。これらの傾向は、金利が比較的高止まりしている限り続くでしょう。一方、もし金利が低下すれば、借換(リファイナンス)ブームが発生する可能性もあります。現時点ではリファイナンス活動は非常に低調ですが(3%のローンを6%に借り換える人はほぼいません)、2026~2027年に金利が1~2ポイント下がれば、数百万人がリファイナンスの恩恵を受けるかもしれません。これは住宅ローン業界も期待している動きです。
また、金利の投資家・開発業者への影響にも注目すべきです。商業不動産取引は過去1年で鈍化しており、借入コスト上昇と厳しい与信判断が原因です。前述の通りキャップレート(投資利回り)も上昇しましたし、高レバレッジの投資家はリファイナンスで苦戦しています。2023~24年の集合住宅・商業用住宅ローン発行額は大きく減少しました。しかし金利がやや低下する見通しの中、業界予測は投資活動の活発化を見込んでいます。CBREは、2025年に商業不動産投資額が5~10%増加すると予測しており、経済への信頼回復と売買双方の価格期待の収束が背景です cbre.com cbre.com。住宅の方は、住宅ローン発行額(購入+借換)がボトムから上昇する見込みです。ファニーメイの試算では、2025年の住宅ローン発行額は約1兆9800億ドル、2026年には2兆3300億ドルに増加し、住宅売買の回復やリファイナンス需要の復活を反映しています mpamag.com。この数字は2020年リファイナンスブーム時の4兆ドル超には及びませんが、流れは上向きです。
まとめると、金利は2028年まで不動産市場の重要な変動要因であり続けます。ベースライン予想としては、今後数年で住宅ローン金利が緩やかに低下しますが、極端な低金利には戻りません。金利が緩和すれば、購入・建築の活動が徐々に強まるはずです。しかし、いかなる予測も、予想外のインフレや経済ショックがあれば金利動向が変化しうるという注意点があります。現時点のコンセンサスは、「最悪の金利ショック期は過ぎ、状況は徐々に借り手や投資家に有利になる」というものです。ある住宅ローン業界幹部はこう述べています。「歴史的な最低水準までとはいかないが、今後やや金利は下がると見込んでいます」 mpamag.com。現在6%の住宅ローンを前提にし、将来5%台にリファイナンスできる可能性を想定するのが、この時期の購入者にとって賢明な戦略でしょう。
IV. 地域・都市レベルのハイライト
不動産は「ローカル」が基本です。全米動向が背景となる一方、米国内の地域差は近年とても顕著であり、今後も続く見通しです。ここでは地域・都市別の住宅市場動向や注目すべき主要都市についてまとめます:
- サンベルト・ブーム(南東・南西部): サンベルト地帯(フロリダからテキサスを横断し、南西部や西部の一部に広がる)は、過去10年で際立った成績を示し、今も多くの指標をリードしています。フロリダ、テキサス、カロライナズ、ジョージア、アリゾナ、テネシーなどでは人口・雇用の伸びが強く、個人(リモートワーカーやリタイア層を含む)、企業ともに移住が相次いでいます。この流入が住宅需要を押し上げ、この地域の住宅価格は相対的に堅調です。サンベルトの多くの都市で2022年まで二桁台の価格上昇が続き、一部市場では2023年にやや調整(下落)したものの、概ね底堅い状況です。例えば、マイアミ(フロリダ州)の中央値住宅価格は過去1年で約9%上昇 realtor.com、オーランド(フロリダ州)は前年同月比12%超の上昇 realtor.comというRealtor.comの予測が出ており、引き続き強さが窺えます。一方、パンデミック時の住宅バブルの象徴だったオースティン(テキサス州)は2年間で約40%も価格高騰した後、2023年に調整が入りました。2025年初頭時点で同市の価格はピークよりやや下がりましたが、経済は堅調で人口増も旺盛なため、NARはオースティンについて「近い将来価格が回復に向かう」と予測しています nar.realtor。サンベルト市場の共通点は、(沿岸都市と比べた)手頃さ、低い税負担、雇用創出、温暖な気候―これらの要因は2020年代後半も続く見込みです。ダラス-フォートワース、アトランタ、フェニックス、タンパ、シャーロットなどの市場は投資家から特に人気です。注意点としては、フロリダ沿岸や湾岸地域はハリケーン・洪水による保険コスト上昇の影響を受けており、対応しないと手頃さや購入意欲を減じる要因になり得ます。
- 高コスト沿岸都市: ニューヨーク市、サンフランシスコ・ベイエリア、ロサンゼルス、ボストン、ワシントンD.C.、シアトルなどの高額都市は、より混合的なパフォーマンスです。2020年に一時的な値下がり(リモートワークで都市離れ)が起きた後、2021年には都市生活の再開で再度価格が上昇。2022年には、沿岸都市の多くが人口流出や(サンフランシスコ・シアトルでは特に)テック業界のレイオフ等で需要に逆風となりました。2023年にはサンフランシスコの中央値住宅価格が前年同期比で下落し、現在の住宅価値はほぼ横ばい(2025年第1四半期+1.5%) nar.realtorとなっています。ベイエリア市場は実質的に足踏み状態です。しかし、都市部への人口回帰の兆しもあります。NARデータではパンデミック期の「郊外シフト」に対して、2024年に都市中心部への転入者が10年ぶりに最大を記録しました nar.realtor。若年層の就業・利便性志向や、国際移民(主に玄関口都市集中)も回復傾向に。よって、ニューヨークやサンフランシスコがオースティンやナッシュビルの爆発的成長を再現しなくとも、住宅供給が非常にタイトで所得は高いため価格は維持されるでしょう。例えば、最も高価格な都市トップ10のうち8都市がカリフォルニア(例:サンノゼ中値2百万ドル、前年同期比+9.8%) nar.realtorです。こうした市場は、長年の住宅供給不足と立地の良さが要因で、今後も供給が乏しければ徐々に価格上昇と予測されます。沿岸部の住宅手頃さは深刻な問題で、持ち家率も極めて低い(ベイエリアでは55%未満) nar.realtor。この点は今後の地域政策や住宅供給強化策に圧力となるでしょう。
- 中西部の安定: 中西部はいままで脚光を浴びてこなかったものの、相対的な手頃さと安定的な経済で密かに注目されています。コロンバス(オハイオ州)、インディアナポリス、カンザスシティ、ミルウォーキー、ミネアポリスなどは大きなブームもバブル崩壊もなく、安定した一桁台の価格上昇と低ボラティリティを示してきました。2024~2025年には、中西部都市で販売回復が強く、高価格地域からはじき出された買い手が低価格な家を求めています。Realtor.comの分析では、2025年販売・価格上昇率のトップ10に中西部市場が複数入っています realtor.com。なかでも、コロラドスプリングス(時にマウンテンウェスト扱い)が1位、バージニアビーチ(やや南東海岸寄り)が3位、グリーンズボロ(ノースカロライナ州)が10位 realtor.comなど。厳密に中西部でなくとも、“生活の質が良い二次都市”トレンドが見えます。また、中西部は高いキャップレート(賃貸利回り)を誇る場合も多く、クリーブランドやデトロイトなど投資家が一戸建て賃貸や集合住宅取得に注目しています。今後も中西部住宅市場は穏やかな安定成長を続け、大波乱は少なそうです。留意点は人口で、一部エリアで人口停滞や微減も続くため住宅需要が頭打ちになるリスクはありますが、医療・教育・製造業が強い都市では堅調です。
- 北東回廊: ボストン~D.C.の北東回廊は様々な力学が混在しています。ニューヨーク市の住宅市場は2020年の低迷から回復し、マンハッタンの家賃は2022年に過去最高値、コンドミニアム価格も安定。NY近郊(ニュージャージー、ロングアイランド、コネチカット)郊外は供給不足で強含みです。ボストン市場は教育・バイオテック雇用に支えられ、中程度の価格上昇を継続。フィラデルフィアやボルチモアは比較的手頃な都市で、D.C./NYCの代替として人口流入がみられます。ワシントンD.C.は近年価格横ばい傾向ですが、これは高層コンド供給過多と一部人口流出のせい。ただし高所得と一戸建て住宅用地の限界から独立住宅市場はなお競争的です。北東部全般で住宅の築年が古く成長も遅いため、供給は非常にタイト。地域経済(政府・教育・金融・医療が主軸)が安定する限り、価格は緩やかに上がり続けるでしょう。興味深いのは、高金利が高額市場により大きな影響を及ぼすという点―100万ドルのニュージャージーの家の金利7%負担は、30万ドルのオハイオ住宅より遥かに重い。そのため、北東部の手頃さの厳しさは大きく、価格上昇も短期的には抑えられそうです(金利低下または所得上昇まで)。
- 地域的な手頃さと移住パターン: 総じて、手頃さは地域成績の主要な決定要因です。数年前に非常に手頃だった地域(南東部やアイダホ・ユタ州など西部の一部)は、移住流入で一気に値上がりし今や安くないため、やや市場は調整傾向に。逆にほとんどブームがなかった地域(中西部や北東部)は今や相対的な掘り出し物になっています。引き続き、高コスト州から低コスト州への移住が起こっており、例えばカリフォルニア、イリノイ、ニューヨークは純流出、フロリダ、テキサス、カロライナズ、テネシーは純流入です。これはリモートワークの柔軟性や温暖・安価なエリア志向のリタイア層にも影響されています。フロリダはこの数年で住民・住宅価格ともに爆発的増加(3年間で約40%上昇)しました。最近はナポリスやタンパ、南フロリダの一部で地元住民の価格到達不能や保険問題で横ばい傾向ですが、マイアミとオーランドは2025年も販売・価格上昇でトップと予想 realtor.comなど、なお高い人気が続いています。
表1に、地域別住宅指標の一例をまとめて示し、多様性を可視化します。<table> <thead> <tr><th>都市圏(地域)</th><th>2025年第1四半期中値住宅価格</th><th>前年比価格変動</th></tr> </thead> <tbody> <tr><td>**サンノゼ, CA(西海岸)**</td><td>$2,020,000</td><td>+9.8%:contentReference[oaicite:92]{index=92}</td></tr> <tr><td>**ナポリス, FL(サンベルト)**</td><td>$865,000</td><td>+1.8%:contentReference[oaicite:93]{index=93}</td></tr> <tr><td>**サンフランシスコ, CA(西海岸)**</td><td>$1,320,000</td><td>+1.5%:contentReference[oaicite:94]{index=94}</td></tr> <tr><td>**ホノルル, HI(太平洋)**</td><td>$1,165,100</td><td>+7.3%:contentReference[oaicite:95]{index=95}</td></tr> <tr><td>**アーバン・ホノルルはトップ10のうち大陸外市場で唯一高額リストに入った都市です。**</td><td></td><td></td></tr> </tbody> </table>
(表1:Q1 2025年における一戸建て住宅の中央値価格と年間価格変動の代表的都市圏例。最も高価格帯の市場でも成長率には差異がみられます――たとえば、サンノゼのテクノロジー主導市場は約10%の上昇を記録した一方、サンフランシスコはほぼ横ばいでした nar.realtor。フロリダ州ネープルズは、かつての好調市場が冷え込み、+1.8%にとどまりました nar.realtor。)
データが示すように、2025年までにほとんどの都市圏市場で住宅価格は新たな最高値を記録しました(たとえ成長ペースは鈍化していても)nar.realtor。住宅購入の手頃さの課題は全米に広がっていますが、特に高価格の大都市圏で深刻です。2025年初頭、中央値価格の家を購入するためには(頭金10%で)家族収入10万ドル以上が45%近くの市場で必要でした nar.realtor。逆に、家族年収5万ドルでも住宅を購入できる場所(約3%の市場)はまだ存在し nar.realtor――その多くは中西部や南部の小規模都市です。このギャップこそが人々が住み替える理由を浮き彫りにしています。今後も地域間の人口移動は続くと予測されます:雇用の見通しが良く住宅が手頃な地域には今後も移住者が増え(それが住宅市場を下支え)、極端に高価な市場では高所得者に依存したり成長が鈍化するでしょう。しかし、どの地域も一枚岩ではありません――新工場の開設、テック企業の進出、自然災害など個別要因で都市の不動産が大きく左右されることもあります。不動産関係者は、マクロのトレンドを押さえると同時に、こうしたミクロレベルの動きを注視する必要があります。
V. 主要な人口動態、技術、経済の推進要因
不動産市場には複数の基礎的な力が作用しています。本セクションでは、住宅・商業不動産に影響する主要な人口動態、技術、経済の推進要因を取り上げます。これらの要素は観察されるトレンドの背景を説明し、今後数年間に市場がどう進んでいくかの洞察を与えます。
- 人口動態の変化: 人口動態は住宅需要の運命を左右します。米国では世代交代が進行中です。ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)は、労働力人口で最大の世代で、現在はほぼ後半20代~30代後半、つまり世帯形成と住宅購入の最盛期に当たります。この世代は学生ローンや2008年金融危機の影響で住宅購入が前世代より遅れる傾向がありましたが、今や多数が市場に参入しています。実際、初回住宅購入者の中央値年齢は38歳と過去最高となっており nar.realtor、高騰する住宅価格の中で頭金を貯めるのに苦労してきた現状を反映しています。多くは家族の援助に頼っており、初回購入者の25%が親族から贈与または借入、7%は相続資金を利用したという記録的な数値となっています nar.realtor。ミレニアル世代が成熟するにつれ、スターターコンのような小型物件から郊外の広い住宅などへの志向が強まり、家族向けエリアの需要増に繋がるでしょう。その後を追うのがZ世代(1997~2012年生まれ)で、最年長は20代半ばとなり、キャリアを始めて多くは賃貸暮らしです。今後5年でZ世代は賃貸住宅需要を大きく拡大させ、取引が本格化するのは2020年代後半以降となりそうです。一方で、ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)は完全に退職年齢に入っています。ブーマーは「住み続ける」(Age in place)傾向が強く、先代より家に長く留まるため住宅流動性が低下しています。しかしダウンサイジングや子や孫の近くへ移住の動きもあり、フロリダ・アリゾナ・カロライナ州など市場へ影響を与えています。2023~24年にはブーマーが若年層を上回る勢いで住宅購入に積極的だった四半期もあり、彼らは自己資本が豊富なため現金購入が多いのが特徴です。実際、現金購入は過去最高の26%(リピーター購入では30%以上)となっています nar.realtor。年配の買い替えや蓄積資産の活用が背景です。別の人口動態トレンドは多世帯同居世帯の増加です。NARの報告では、親や成人の子など複数世代で同居する目的で購入した割合は過去最高の14%~17%に達しています nar.realtor。コスト削減や文化的背景が要因で、親世帯スイート付きの一戸建て需要などに繋がります。全体の人口増加は2010年代後半に鈍化したものの、2021年以降の国際的な移民増により再び押し上げられています。特に都市部における生活拠点や賃貸需要として、移民は新規世帯形成の鍵です。今後も健全なペースで移民が続けば住宅需要は堅調でしょう(新たな家族ごとに住まいが必要です)。総じて、人口動態は住宅市場に追い風:幅広い層が家を持つ世代に入り、人生の節目で住み替えが促進され、人口増加で供給への圧力が維持されます nar.realtor。唯一の懸念は、若年層の手頃さ(アフォーダビリティ)です―価格と金利が高止まりすればミレニアル・Z世代の世帯形成がさらに遅れ、賃貸重視となり、持ち家比率(homeownership rate)が想定より伸び悩む恐れがあります。
- 技術トレンド: テクノロジーは不動産を多様に変化させています。最も大きいのはリモートワーク技術の台頭で、多くの労働者がオフィスに縛られなくなりました。すでに住居の需要地図を変え(都市中心部から遠方や全く別の地域に転居可能、いわゆるサンベルト移動)、今後もハイブリッドワーク形態が続くと見込まれるため、分散型の住宅需要が定着しそうです。人々は通勤時間より「予算」と「広さ(ホームオフィス)」を優先、この傾向は郊外やより外縁の不動産に恩恵をもたらしています。ただし一部で従業員回帰を求める動きもあり、都市住宅が無価値になるわけではありません。商業用ではリモートワーク技術がオフィス市場にとって根本的な課題となっています。別の技術トレンドとしては、eコマース(電子商取引)の成長があります。パンデミック加速でオンラインショッピングが拡大し、物流施設(倉庫・配送センター)需要が増大、一方で特定の小売形態には逆風です。商業施設オーナーは「体験型店舗(娯楽ジム・医療機関等)」を誘致しネット耐性を強化しています。今後もテックと小売のせめぎ合いは続くでしょうが、オムニチャネル小売(ショールームやオンライン注文の拠点としての店舗)が浸透し、好立地の店舗利用を下支えします。住宅分野では、テクノロジーの進展で取引が効率化し、オンライン住宅情報ポータル(Zillow、Redfin、Realtor.com等)やバーチャル内覧が買い手に前例ない情報を与えています。デジタル住宅ローンや電子クロージングも手続き簡素化に貢献。こうした効率化自体が供給・需要構造を変えるわけではないにせよ、市場の透明性を高め摩擦をやや軽減します(とはいえ入札競争は依然熾烈です)。また、プロップテックやスマートホーム分野も拡大中で、多くの新築や集合住宅でIoT機器やスマートサーモスタット、警備システムが標準に。建設手法も(まだゆっくりながら)変化――モジュラー建築や住宅の3Dプリンティングなどは、将来的にコスト削減や建築速度向上に寄与する可能性があり、大規模導入されれば住宅不足対策の切り札となり得ます。さらに、データ分析やAIが不動産投資家によるチャンス発見(アルゴリズムを用いた割安物件の発掘や市場動向予測等)に活用されています。特定業態としては、データセンター自体がクラウド・AI成長で急増しており、空室率2.8%で大量供給が進行中 cbre.com。こうしたデジタルインフラ需要(データセンターや基地局用地など)もディベロッパーが新たに考慮する要因です。最後に、テック業界の浮き沈みも個別市場を大きく左右し、サンフランシスコ・シアトル・オースティンなどのテック都市では企業業績で住宅市場がよく変動します。2025年時点ではテック業界もリストラから持ち直し傾向で、これらの都市の住宅市場再活性化に向け良い材料となっています。2025~2028年にAIなど新技術でテック好況が再燃すれば、高コストなテック都市圏の住宅不足が再び深刻化するでしょう(供給増が追いつかなければ)。
- 経済・政策要因: より広い経済状況も本質的な推進力です。雇用増・所得動向・GDP成長率は不動産需要に直結します。2025年の米国経済は緩やかな成長が予想されており、CBREは2025年GDP成長率2.0~2.5%を見込んでいます cbre.com。これはトレンドをやや上回る水準で、軟着陸を想定。堅調な消費と金融環境の緩和が成長要因です。2023~24年には住宅販売が落ち込む中でも雇用創出は堅調で、コンディションが整えば隠れた住宅需要が顕在化しうると示唆されます realestatenews.com。今後も失業率が4~4.5%台で安定すれば cbre.com、世帯形成や住宅投資は続きます。賃金上昇も重要な指標で、近年は住宅価格上昇ペースに追いついていないため手頃さへの圧迫要因となっています。今後賃金上昇4-5%、住宅価格上昇2-3%のペースが続けば、徐々にバランスが改善します。インフレも金利や建築コストに影響するため次第に市場にも波及。2021~22年の建築コスト高騰(資材・労働力不足)は落ち着きつつありますが、住宅建設コストはパンデミック前より大幅に高止まりしています。供給増・手頃さ向上には建設生産性向上とコスト抑制、あるいは規制緩和や補助政策が鍵となるでしょう。政府政策も依然として大きな変動要素です。連邦レベルでは初回購入支援策(頭金補助や税額控除等)が検討されており、実施されれば需要下支えになる可能性があります。ただし最大の影響は州・自治体単位で、ゾーニング改革や手続き迅速化・手頃な住宅へのインセンティブは逼迫市場の供給増に貢献可能です。カリフォルニアやオレゴン州は法制化により住宅供給要求やADU(離れ付住宅)合法化を進めており、長期的な住宅供給増に繋がっています。金融環境(融資基準)は金利上昇や経済不透明感から全体として厳しくなっています。これは購入者(資格取得や手数料負担増)だけでなく、開発業者(建設融資の与信厳格化)にも影響します。銀行部門の安定や金利低下で融資環境が緩和されれば不動産取引は増えるでしょうが、逆に金融ショック(流動性危機や債務上限問題での金利乱高下など)は市場心理を直撃します。財政政策(政府支出と赤字)も無視できず、巨額財政赤字は長期金利高止まりの一因とされます nar.realtor。米国が赤字を減らせば、債券金利や住宅ローン金利への上昇圧力が和らぐ可能性もあります。そしてもちろん、税制も不動産に影響。現行制度でのSALT控除や投資家向け課税変更議論などが、高税州や賃貸物件オーナーの購入インセンティブを左右しかねません。
まとめると、世帯主世代の増加という人口動態の追い風が長期的な住宅需要を下支えし、テクノロジーが人々の暮らし・働き方・居住地といった空間を再編成し(一様でない物件種別への影響をもたらし)、経済環境(金利・雇用・インフレ)が全体の勢い・方向性を決めます。これらは相互に関連しており、例を挙げれば、テクノロジーで中西部リモート雇用が増えれば、それ自体がその地域の人口・経済構造を変えることに繋がります。また、経済政策でインフレが抑制されれば、データセンター分野の技術ブームが(電力網負担を抑えて、原発利用などと合わせて)実現しやすくなります cbre.com。今後も不動産関係各社は、こうしたマクロ推進力の動向に注意していく必要があります。今後数年は、パンデミック後の新常態・2010年代より高い金利水準・新世代の価値観への適応が続く展開となるでしょう。
VI. 投資リスクと機会
2025~2028年の不動産市場は、多くの点で有望である一方で、投資家(大規模な機関から個人の住宅所有者・家主まで)にとって独自のリスクとチャンスも伴います。以下に、この期間に注意すべき主要なリスクと、活用できる可能性のある機会をまとめます。
主な投資リスク:
- 高金利および資金調達コスト: 高金利は借入コストを引き上げ、投資リターンや住宅の手ごろさを損なう可能性があります。金利が予想以上に長く高止まりしたり、インフレにより再び急上昇した場合、不動産取引の資金調達は引き続き困難となり、不動産価値を下押しする可能性があります。低金利時代に購入した多くの商業投資家は、リファイナンスリスクを抱えており、現在の金利でのリファイナンスは困難となるため、一部ではデフォルトや不動産の投げ売りに繋がり得ます。特にオフィス部門で、価値下落と高金利が重なっています(2025~2026年にオフィスの商業用ローンを大量に抱えています)。利回り(キャップレート)の上昇は短期的にすべての分野で不動産価値を下げるリスクがあり、現保有者には注意が必要です。
- 景気後退の可能性: 基本シナリオはソフトランディングですが、FRBの過度な引き締めや世界的ショック、地政学的事象により、常に不況のリスクが存在します。大幅な雇用喪失を伴う不況 は不動産需要を減退させます(購入希望者の減少、アパートの空室増加、小売業者の苦戦など)。ホテルや高級住宅セクターは特に景気変動に敏感です。中程度の景気後退でも、テナントのデフォルトや空室増のリスクを増幅しかねません。投資家は賃料上昇想定を慎重にし、景気後退に耐えられる現金準備を要します。
- 市場の二極化と陳腐化: 既述の通り、特定の不動産(古いオフィス、時代遅れのショッピングセンター、設備のない古いアパートなど)は機能的に陳腐化し、競争力が大きく低下する可能性があります。資本がこうした資産に「閉じ込められ」、簡単には売却できないリスクがあります。例えば、古いオフィスビルを住宅へ転用には多額の投資が必要で、地元のゾーニングや経済の観点から実現しないことも。困難な立地・二級品質の資産保持者はバリュートラップリスクを抱えます。同様に、住宅でも人口減少や気候レジリエンスの乏しい地域の物件はパフォーマンスが悪くなるかもしれません。買ってはいけない物件を見極めることが、良い案件発掘と同じく重要です。
- 規制および政治リスク: 不動産は規制変更の影響を強く受けます。ひとつは家賃規制やテナント保護法が手ごろな住まい対策として拡大するリスク。すでに一部州・都市では家賃上限が導入されており、家主の収入増加が制限されます。また、固定資産税の引き上げリスクもあり、自治体の歳入確保のため商業用・住宅用いずれにも大きな打撃となる場合があります(サンベルト都市などで急騰傾向)。ゾーニング法の改正は両刃の剣で、規制緩和でチャンスが拡大する一方、環境やデザイン面での規制強化はコスト増を招きます。極端な例では、1031交換廃止や不動産売却益課税強化の動きが投資家心理に影響を与える可能性も(連邦レベルですぐに変化はありません)。
- 気候・環境リスク: 気候変動は不動産にとってますます重要なリスクです。沿岸の洪水地帯、ハリケーン被災地、山火事地帯、干ばつ地域の物件は保険料が高くなり、資産価値の毀損リスクも高まりつつあります。例えばフロリダ州の一部では保険会社が撤退し、長期的な保険適用の不安が高まっています。同様に西部の州では山火事リスクのため一部高級郊外市場がリスキーです。レジリエンス向上を目指す環境規制(地盤のかさ上げや耐火素材の義務化など)は開発やリノベーションコストを押し上げます。数十年後に水没や居住不可能になる物件を防ぐためにも、投資家は気候リスクを必ず計算に入れる必要があります。
- 執行リスクおよび流動性リスク: 市場の変動性が高い環境では、大規模プロジェクトや再生戦略の実施にリスクが伴います。例えば、苦境に陥ったオフィスを購入しアパートへ転用しようとしても、予想外の工事難航や地元の反発に遭うことも。一方、流動性リスクは市場心理が悪化したり、債券市場が凍結する(2020年初頭に一時発生)と、適正価格で早期売却できなくなることを意味します。そもそも不動産は本質的に流動性が低いため、投資家は長期保有に備えるべきです。短期転売やフリップ目的の投資家は市場の振れに巻き込まれる可能性があります。
これらのリスクがある一方で、今後数年には数多くのチャンスも存在します。
主な投資機会:
- 買い手市場での選別購入: 2020~2022年の過熱した売り手市場を経て、多くの地域(特に高級住宅や投資家が多かった市場)では落ち着きを見せています。2025年の個人住宅購入者は競合が減り、在庫物件が増え、一部は値下げも期待でき、入札合戦から開放される時期になりそうです。資金的に準備ができている人は、特に早期転居希望者など売り急ぎの売主を狙えば、有利な条件で取引可能です。投資家にとっては、最近のピークから比べて割安で物件取得できる機会が生まれています。たとえばサンベルトの一部都市(ボイジー、オースティン、フェニックス)では価格が急落したため、成長再加速前の良い参入ポイントを狙う機敏な投資家が注視中です。
- ディストレス資産の取得: 高金利環境下で、特定の物件所有者が苦境に立たされており、特にオフィス分野や、過剰債務を抱える集合住宅オーナー、新築住宅の販売不振の地域開発業者などが該当します。これは1990年代初頭や2008年以降のディストレス投資機会を彷彿とさせる状況です。資金力のある機関投資家は、不良債権や差し押さえ物件を割安で取得すべく準備中で、特に再活用可能なオフィス物件に注目です。ホテルや小売物件も再取得コスト以下で再活用できる可能性があります。ディストレス資産の取得チャンスは、高金利がどこまで続くか、銀行が問題債権をどう処理するか(延長か差押さえか)に左右されますが、資金と我慢強さがあれば今後1~3年はサイクルに一度の好機となり得ます。物件再生や金利低下(価値上昇)時には大きなリターンも期待できます。
- 未開拓分野および市場の成長: 成長の追い風が強い分野は、開発や投資の観点で魅力的です。既述の通り、物流・工業系不動産は依然需要が旺盛で、物流拠点への最新センター建設や大型小売店舗の物流センター転用は有望です。集合住宅(マルチファミリー)もほぼどこでも求められているものの、豪華な高級アパートは供給が進む一方、中間層やワーカー向け住居は不足しています。中堅賃貸や移動住宅コミュニティに焦点を当てる開発業者や投資家は、安定収益と競合の少なさの恩恵を受ける可能性大。一戸建て賃貸(SFR)も成長株で、大手機関が継続して物件を購入・建設し、個人投資家もこの流れで恩恵が得られます(高賃貸需要市場が狙い目)。都市単位では、クリーブランド、ピッツバーグ、ルイビル、オクラホマシティ等の新興二次都市が、近年の価格高騰を逃れ、堅調な賃料利回りと評価益のポテンシャルを持ち、リモートワーク人口や企業の分散を背景に注目されています。収益志向の投資家に注目され、今後地理的分散が進めばリターンはさらに大きくなるでしょう。
- 付加価値・再活用戦略: 老朽化した不動産ストックにおいては、リノベーションや用途変更を通じた価値向上のチャンスが豊富です。たとえば1970~80年代築のアパートを取得し、設備内装改修で賃料アップを図るという王道の付加価値戦略は今なお有効です(最新仕様や省エネ家電を望むテナントニーズは高い)。小売では、不振ショッピングモールを集合住宅・オフィス併設の複合「タウンセンター」へ再生する事例も増えています(実例もあり)。また話題のオフィス→住宅転用も、設計や費用で一部案件のみ採算が合いますが、ワシントンD.C.やニューヨークなどはインセンティブを用意しており、空室オフィスの価値ある住宅化を後押ししています。こうした転用構築を早期に手がけることで、安価な取得+行政支援=高リターンの道筋が拓けます。
- 人口動態による波に乗る: 人口構成変化に起因したチャンスも多く、たとえば高齢者住宅・55歳以上向けコミュニティ(ベビーブーマー引退で需要急増)、大学進学率増加エリアの学生向け住宅、ついに購入フェーズへ入るミレニアル世代の若年層向け住宅(小型・手ごろな住宅供給が鍵)などが挙げられます。また、マルチジェネレーション住宅(複数世代が共に暮らす家)も、設計段階で拡大家族に配慮した間取りを採用することで、NARの nar.realtor で指摘されたトレンドをうまく取り込めます。都市部の物件(小規模集合住宅やコリビングスペースなど)にも着目すべきで、若者の回帰による賃料上昇が始まっています。
- 金利低下のアップサイド: 興味深いのは、リスクであるはずの高金利そのものが実は将来的なアップサイド要因ともなる点です。投資家が今の高いキャップレート・高金利で物件取得&融資を受けた場合、もし数年内に金利低下すれば大きなプラス要因となります。リファイナンスによるキャッシュフロー改善や、キャップレート低下に伴う資産価値上昇(調達コスト減で購入希望者の資金力増)が見込まれます。住宅購入者も「家には永遠に、金利には一時的に」――すなわち気に入った家を今買い、後で低金利時に借り換える戦略が有効です。金利低下への期待は、今行動する投資家に追い風となります。実際、Fannie Maeの調査では多くの専門家が今後数年で住宅ローン金利が緩やかに低下し、歴史的平均近くに戻ると予想しています mpamag.com mpamag.com。それ以前に購入・投資を実行できれば、相対的割安で仕込み、需要回復時の値上がりも期待できます。
リスクと機会を見極める際、投資家(大口・小口問わず)は慎重かつ徹底したデューデリジェンス・投資規律の維持が不可欠です。不動産は長期・循環型のビジネスで、2025~2028年は選別眼の利く投資家――立地・持続的需要要因・現実的なイグジットプランにこだわり、短期の不安定さに耐えられるバッファーを持つ人――に報いる期間となるでしょう。金利固定やヘッジ活用、LTV比率の抑制、余裕を持ったプロジェクト予算確保といった慎重策が、多くのリスク対策になります。一方、機会側では(資金や融資の準備も含め)好条件の案件が出た時にすばやく動ける体制が鍵です。市況回復時には必ず競合が戻ってくるので、タイミングを逃さない備えも重要です。全体として、市場には不確実性がありますが、不動産は本質的価値と実績あるレジリエンスを有した資産クラスであり、今後数年で今より好条件で高品質資産を獲得できる場面が広がるでしょう。それこそ賢明な投資家が最も魅力を感じるポイントです。
VII. 2025–2028年の見通しと予測
今後数年間、米国不動産市場はどのようになるのでしょうか?予測は常に難しいものですが、大半の主要アナリストは、緩やかな正常化と成長の期間を予想しており、バブルや暴落のような極端な動きは見込んでいません。ここでは、各セグメントの見通しをまとめ、2028年までのコンセンサス予測を紹介します。
住宅価格:2020~2022年の極端な上昇(この間に全米の住宅価格が約40%上昇)の後、2023~2024年は市場が一時休止状態となり、横ばいもしくはわずかな上昇にとどまりました。今後については、ほとんどの予測は住宅価格の緩やかな上昇—年間で一桁台前半程度—が今後数年は続くとしています。下表に、いくつかの信頼できる情報源による予測を示します。
予測元 | 2025年予想住宅価格変動 | 2026年予想住宅価格変動 |
---|---|---|
ファニーメイ(FNMA) | +4.1% mpamag.com | +2.0% mpamag.com |
全米リアルター協会 | +3% businessinsider.com | +4% businessinsider.com |
米国モーゲージ銀行協会 | +1.3% businessinsider.com | +0.3% businessinsider.com |
Zillowリサーチ (住宅価値指数) | –1.4% zillow.com (減少) | (予測なし) |
エキスパートパネル(100人以上のエコノミスト) | +3.4% fanniemae.com | +3.3% fanniemae.com |
表2:2025年および2026年の主要な住宅価格成長予測。大半の専門家は成長の継続を予想していますが、近年ほどの急速な伸びではなく、年率0~4%程度を見込んでいます(ファニーメイとNARは比較的強気、MBAは慎重で、Zillowは2025年に僅かな下落、その後再び成長を予想)。いずれも緩やかな推移(大幅な下落や急騰はなし)を予想しています。
上表が示すように、予測には幅があります。NARの最新見通し(2025年初時点)では、2025年に3%上昇、2026年には4%へ加速すると予想されています businessinsider.com。これは実質的に所得増加と同程度です。ファニーメイは2025年+4.1%とさらに強気ですが、2026年には+2%へとクールダウンする予想です mpamag.com。これは供給増加を想定している可能性があります。MBAは最も慎重で、2026年まで0%をわずかに上回る成長を予想しています businessinsider.com。金利の高さが価格抑制要因とみています。Zillowの2025年微減(–1.4%)予想 zillow.comは、在庫増加と需要の低迷が続けば一部エリアで若干の価格下落もあり得ることを示唆します(以前は–1.9%と予想していましたが、–1.4%まで上方修正)。Pulsenomics/ファニーメイによる専門家調査では、2025年+3.4%、2026年+3.3%というコンセンサスが得られました fanniemae.com。これは実質的に正常で持続可能な成長への回帰といえます。2026年以降は、明確な公式予測は減りますが、多くの専門家は、住宅価格は2027~2028年も同様に一桁台前半の伸びが続くと見ています(新たな衝撃がなければ)。供給不足と堅調な需要による支えがあります。もし2020年代後半に住宅ローン金利が大幅に低下すれば、価格上昇ペースが多少加速する可能性もありますが、その場合は手の届きやすさも改善し、よりバランスのとれた市場となるでしょう。
住宅販売と建設:販売面では、2025年が回復の始まりとなるとの見方が支配的です。NARは2025年の中古住宅販売数が約6%増加(2026年にはさらに約11%増)と予測しています realestatenews.com。ただし、これらの数値は以前の楽観的な予測より下方修正されています。ファニーメイは2025年中古販売の予想を11%増から約4%増(販売件数約490万件)へ下方修正しました(2025年5月時点) housingwire.com。Zillowは約1~2%増と控えめです。今後の動向は住宅ローン金利の動きに大きく左右されます。2025年末までに6%台前半や5%台後半になれば、積み残し需要が一気に活性化する可能性もあります。2028年までには、アナリストによっては、年間550万~600万件という「通常」水準(2019年以来の水準)に戻る可能性も指摘しますが、金利が高止まりすればこれは楽観的かもしれません。新築販売はむしろ底堅く、(建築が在庫不足の一部を補ったため)2025年は10%程度の増加が予想されています(NAR、ファニーメイ等)realestatenews.com。ビルダーは金利引き下げやインセンティブを活用しつつ需要獲得に努めています。住宅着工件数は2025年にわずかに減少(2024年約134万戸→約130万戸)する可能性はありますが、2026~2028年にかけて150万戸中盤へトレンドが上昇する予想です businessinsider.com。重要なのは、これらの水準でも住宅供給不足は完全に解消されず、供給不足は中期的な住宅価格の支えになることです。賃貸住宅建築は2026年以降大幅な減速が予想され(2024~25年がピーク)、2027年には再び賃貸市場の逼迫要因となる可能性があります。
住宅ローン金利と融資:金利予測では、徐々に低下するとの見方が一般的です。上述のとおり、ファニーメイは2026年末までに30年固定で約6.0%と予想しています mpamag.com。MBAはやや強気で、2027年には約5.5%になるとしています。2028年にはインフレ率が2%以下であれば、住宅ローン金利は5%台中盤に落ち着く可能性があり、これは歴史的に見ても標準的(1980年代に比べれば十分に安い)水準です。米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレが安定していれば2025年には中立もしくは緩和的な姿勢転換が見込まれ、短期金利、さらには長期金利も押し下げる効果が期待されます。一つ不確定要素はFRBのバランスシート縮小(量的引き締め)や米国債に対する国際的な需要です。これらは2023年のように長期金利を想定以上に高止まりさせる可能性がありますが、金利のピークはすでに過ぎたというのがコンセンサスであり、2020年代後半は2020年代前半より低水準または少なくとも上昇しない水準の見込みです。これは住宅および商業不動産双方にプラス要因です。住宅ローンの借入条件も金利が下がれば再び緩和し、初めて住宅を購入する層向けプログラム、銀行の自社保有ローン、ノンQM(非標準ローン)の復活も期待できるでしょう。商業部門でも、2026~27年にデット市場が緩み、収益還元利回り(キャップレート)がやや低下し、不動産価値が緩やかに上昇する可能性も指摘されています cbre.com。
賃貸市場:賃貸セグメントでは、2025年・2026年は新規集合住宅の大量供給を「吸収」していく年となりそうです。専門家パネルは、これらの年で全米平均の賃料成長率は年3%程度と予測しており、これは穏やかな伸びです mf.freddiemac.com。YardiやCBREといった一部企業は2025年の伸びをさらにやや低め(2~2.5%程度)と見ています mf.freddiemac.com cbre.com。2027年・2028年には、建設ペースの鈍化で空室率が再び低下し、賃料上昇が3~4%程度(所得成長並み)に加速する可能性もあります。集合住宅の空室率は2024~25年に6~7%程度でピークを迎え、その後2027年には5%前半まで低下する見通しです。戸建て賃貸は引き続き高い需要が見込まれ、家族世帯によるスペース志向からアパートより高い(中一桁台)の賃料上昇率もあり得ます。持ち家率も、手の届きやすさの向上があれば2020年代後半に再び緩やかに上昇する可能性がありますが、向こう1~2年は約65%(直近で65.1%と5年ぶり低水準、購入困難が主因)で停滞するとの見方が多いです advisorperspectives.com advisorperspectives.com。住宅ローン金利の低下があれば、賃貸世帯から購買層への移行も多少進み、2028年頃には66~67%まで持ち家率が上昇する可能性も指摘されますが、それにはエントリーレベル住宅の供給拡大も欠かせません。
商業セクターの展望: 各商業セクターには、それぞれ独自の回復タイムラインがあります:
- オフィス: オフィスは回復が最も遅く、2025~2026年にかけて高い空室率が続くと予想され、年々わずかに改善していきます。2028年までには、オフィスマーケットは大きく二極化している可能性があり、一等地の高品質オフィスはほぼ満室で安定した賃料を維持する一方、古いオフィスは半分しか埋まっていない、あるいは用途変更されているかもしれません。2025年の全体のオフィス空室率約19%から、経済が好調で一部の物件が在庫から除去(用途転換・解体)されれば、2028年には中盤程度まで下がる可能性があります。空室率が下がるまではオフィスの賃料上昇はほとんど見込めず、多くのマーケットでは数年間にわたり家主が引き続き譲歩を提供するでしょう。投資家は2025~2026年を、資産の再配置や困難なオフィス物件の購入のタイミングとみており、2028~2030年までには立地や更新が良好な資産がより高い収益をもたらすという見方です。
- 小売: 小売の見通しは安定からやや強含み。全国的な空室率は4-5%台で低水準を維持すると予測されており、新たな供給がほとんどありません。小売賃料の年間上昇率は低い一桁台ですが、成長する郊外の人通りが多いエリアでは、限られたスペースを巡るテナント間競争により中位の一桁台まで賃料が上昇する場合もあります。一部の小売業態(オープンエア型の商業施設など)は投資家に特に注目され、ファンダメンタルズが強いことから、こうした人気セグメントではキャップレートがやや圧縮されるかもしれません cbre.com。消費支出が強ければ2028年には新たな小売開発も再び増えるかもしれません。特に人口増が著しいサンベルトでは新たな食料品店やサービス需要が根強いでしょう。ただ、全体としては需要と供給のバランスが取れているため、大きな変動なく安定したリターンが見込まれます。
- インダストリアル(工業用不動産): インダストリアルはより緩やかなペースで成長を続ける見込みです。倉庫需要はEC拡大やサプライチェーン再構築(国内の在庫確保増)によって構造的に支えられています。2023-2024年のクールダウンを経て、2025年のリース成約面積も依然として堅調(8億平方フィート超)cbre.comで、今後も強さが維持される見通しです。CBREによれば「コロナ前の成長要因」に戻りつつあり、安定した吸収が続くと示唆されています。そのため、インダストリアルの空室率は2025年に約5%、建設抑制が続けば2027年には4%以下まで引き締まる可能性も。工業スペースの賃料は直近で二桁増を記録していますが、今後は年率3-5%程度へ減速しつつも健全な水準です。注目点としては、新たな低温保管設備やデータセンター(工業用の性格が強い)、リショアリングによる製造施設などが需要の追加要因となっています。2028年時点では、旧型の低天井物件などはさらに割引されるかもしれませんが、インダストリアルは長期的にも最も好調なセクターの一つです。
- 集合住宅(マルチファミリー): 2028年頃には、現在の供給を消化した後で回復基調になると予測されます。2020年代後半には賃料の再加速があれば新たな建設サイクルの再開もあり得ます。直近(2025~2026年)は安定した運営が続き、空室率は微増後再び低下、賃料上昇率はインフレに近い水準です。参考までにファニーメイ専門家パネルは、2026年の全米住宅価格上昇を約3.3%と予想していますfanniemae.com。家賃の成長も通常は所得や価格に連動するため、アパートの賃料も2020年代半ばには3%台半ばが妥当です。2027-2028年には新規供給が減ることで稼働率が引き締まり、一部市場では賃料上昇が4%を超える展開も(特に雇用が好調なら)。唯一の不確定要素は入居者の所得。賃金上昇が続けば家主は賃料を上げやすくなりますが、逆に家賃規制やテナント保護政策が進む場合は一部都市で賃料増に抑制がかかるでしょう。
地域別見通しのハイライト: 成長している地域(南東部、テキサス、マウンテンウエスト)は今後も成長を続ける見込みです。2028年までの住宅価格上昇はキャロライナ、フロリダ、ジョージア、テキサス、そしてマウンテン州のいくつかで最も強く、これらのマーケットでは今後4年間で累計15%以上の上昇が見られるかもしれません。一方、北東部・中西部では半分程度にとどまる見込みです。しかし、いわゆるラストベルトの一部都市でも、リモートワーカーや新産業(例:オハイオ州コロンバスの新インテル工場等)の誘致に成功すれば、堅調な成長を示す可能性があります。カリフォルニア沿岸部はサンベルトほどの伸びはないものの、依然高値安定であり、そもそも初期水準が非常に高く、手の届きにくさもあって緩やかな成長になるでしょう。2028年までに、従来低迷していたシカゴやボルチモアのような市場でも、住宅政策の強化や都市回帰により活性化する可能性はありますが、全般的には安定市場にとどまりそうです。
住宅の手ごろさと持ち家率: 2028年までに住宅がより手に入りやすくなるかは大きな課題です。予測の前提どおり、価格の緩やかな上昇と住宅ローン金利のわずかな緩和があれば、世帯所得(最近は年率4%程度で増加)が追いつき始める可能性があります。これにより徐々に手ごろさが改善します。例として、2025年初頭には中央値の家族が住宅ローンに所得の約24%を割いていましたがnar.realtor、金利低下と所得増加があれば、2028年までに22%未満になるかもしれません。この改善によって初めての住宅購入者が市場に増える可能性があります。持ち家率も低迷を抜け再び上昇することが期待されます。初回購入者向け補助(頭金支援など)といった政府の介入も影響します。賃貸側では、2020年代後半に賃貸世帯の一部が購入者へ転換すると賃貸需要はやや緩むかもしれませんが、絶対的な不足状況を考慮すれば賃貸住宅利用率は高止まりするはずです。
軌道のまとめ: 2028年には、米国不動産市場はより安定した基盤を築いていると予想されます。パンデミック期の過剰感は完全に解消され、売買・賃貸双方で在庫状況がやや改善し、住宅ローン金利も適度な範囲に落ち着いていることが期待されます。システミックなクラッシュ(2008年のような住宅ローン信用危機)は見込まれておらず、調整は地域ごとで緩やかに進むはずです。実際、2023-24年には7%台の金利にもかかわらず価格は持ちこたえるか微増するなど、底堅い需要が示されました。慢性的な住宅供給不足と人口動態による需要が、全国的な急落を防ぐ安全弁として機能していますbusinessinsider.com。商業不動産では、2028年には一種のルネサンスが期待され、中盤で取引された困難物件も再生し始め、オフィスなども供給圧縮や用途転換により新たなスタートを切る可能性があります。
もちろん、不確実性は多く存在します。地政学的要因、政策転換、または「ブラック・スワン」(新たなパンデミック等)があれば予想は大きく変動するでしょう。しかし、そうした異常事態を除けば、2025~2028年のベースラインシナリオは慎重ながら楽観的です。住宅市場は販売・建設で緩やかな回復と価格上昇傾向、商業不動産も段階的な復調(インダストリアル・集合住宅・一等小売がけん引)と、苦戦するセグメントは適応によって均衡を取り戻す見込みです。忍耐と慎重さをもって数年を乗り切った投資家や購入希望者は、より正常化した持続的成長局面の恩恵を得る立場に立てるでしょう。
出典:
- 全米リアルター協会(NAR) – 2024~2025年住宅市場予測およびデータ nar.realtor nar.realtor realestatenews.com
- Zillow リサーチ – 住宅価値・販売予測(2025年5月)zillow.com zillow.com
- ファニーメイ経済・住宅見通し(2025年4・5月)mpamag.com mpamag.com
- フレディマック集合住宅見通し2025 mf.freddiemac.com
- CBREリサーチ – 米国不動産市場展望2025(2024年12月)cbre.com cbre.com cbre.com
- Realtor.com – 2025年の注目住宅市場(2024年12月)realtor.com realtor.com
- 米国国勢調査局(Census Bureau)– 住宅空室率と持ち家率レポート(2025年第1四半期)advisorperspectives.com advisorperspectives.com
- NAR四半期住宅価格動向(2025年第1四半期)nar.realtor